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挽歌の候、如何お過ごしでしょうか

【挽歌の候、如何お過ごしでしょうか】 ■制作者/花を吐く抄女(ダウンロード
■容量/53.4MB

片田舎でひっそり経営している喫茶店「挽歌」。コーヒーは旨いがお客は来ない現状を見かねて、マスターの姪である女子高生の樹姫(いつき)が、「メイド喫茶」にしてしまう事を提案。衣装作り、メニュー作りから始まり、さて「挽歌」の経営立て直しは成功するのか。キャラの声もついて、独特の観点が面白い「生活ノベルゲーム」。

ここが○

ここが×

■まずは熱いコーヒーをどうぞ

私は、「喫茶店」が大好きです。新しい街では、まずお気に入りの喫茶店を探すほど。お気に入りの喫茶店でのんびり過ごす一時は、ファミレスなどでは決して味わえない、得難い時間です。なので、私が物語を書くと、必ずと言って良いほど喫茶店が登場します(笑)。今作は、そんな古き佳き喫茶店を舞台にしたお話です。

まずは、冒頭からいきなり「メイド喫茶にする」という展開にぶっ飛んでしまいますが、一見突飛な展開に見えて、実はシナリオは地味ですが、しっかりした物です。決して受け狙いなどではありません。主人公の樹姫と従妹のまひるの、喫茶店にやって来る色んな客との人間模様が描かれますが、個性的な登場人物とのやり取りがなかなか面白いですね。舞台は最初から最後まで、喫茶店「挽歌」なので、ある意味一本調子な感は否めませんが、キャラクターの小気味良い会話で、そこを補っています。

また、主人公である樹姫のキャラクターが面白いですね。冷静ですがユーモアもある文学少女タイプ。彼女の一人称の文章は、女子高校生らしくないとも言えるんですが、凝った描写も嫌味にならずに魅力的です。この主人公は、非常に良く作られていると思います。

反面、樹姫の従妹のまひるは、ちょっと……。コミカルなポジションを狙っているんでしょうが、よくある「そんな料理下手が実在するかよ」的描写を始めとして、この物語の雰囲気に明らかにそぐわないと言いますか。主人公との会話なんて、完全に漫才ですし(苦笑)。この作品で登場人物も語る、「喫茶店は、時間と空間を買う場所」というとても良いテーマに、このキャラクターメイキングは明らかになじんでいません。この作品は、キャラクターの声付きなんですが、困った事にまひるの声が、それを助長してしまっています(演技が上手いだけに)。

もちろん、まひるの前半の言動があるからこそ生きるとも言える描写も、後半にはある事はあるんですが、何せ終始言動が漫才ですから、その時の感銘も長続きしないという結果に(汗)。樹姫との対比という意味でのキャラクターメイクもあるんでしょうが、ここはもう一つ細やかさが欲しかったところ。その他、コミカルな描写は、それ自体は決して悪くないんですが、テーマや雰囲気を考えると、個人的にはどうなんだろうという気が。良い雰囲気の喫茶店なのに、一部だけファミレス、みたいな、そんな違和感を感じました。

今作の良さは、すぐ上でも書きましたが、一見喫茶店の経営立て直しストーリーに見えて、その実「喫茶店は、時間と空間を買う場所」というのを再認識する、ありそうでなかったテーマにあります。実際に、喫茶店が大好きな私が、今作を読んで多いに頷かされましたから。反面オチは弱く、「結局経営はどうなったの?」と思うかも知れません。上手に読み手をつかみ、終始巧みに引っ張っているのですから、良い盛り上げとオチが欲しかったところです。

背景画像は、コーヒーのイラスト画像が色々使われるだけで、いわゆる背景写真も立ち絵もないですが(立ち絵というか、登場人物のイラストは表示されてますけど)、良い雰囲気を出していると思います。音楽もジャズ風の、良い物を選んでいます。ちなみに、舞台は徳島でしょうね。「タウン情報誌『あわわわ』」に、徳島生まれの私はかなりウケました(タウン情報誌「あわわ」というのが実在します)。

この作品は、私のように喫茶店が好きな者ももちろんですが、むしろ「喫茶店?」な方にプレイしていただきたい気がします。読み終えたら、きっとドトールやスターバックスではなく、街の片隅にある喫茶店を探してみたくなるんじゃないでしょうか。プレイ時間1時間ちょい。文字通り、コーヒーを片手にプレイするのをお勧めします。

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