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それじゃあ、またね

【それじゃあ、またね】 準推薦
■制作者/LUNA BLESS(ダウンロード
■容量/17.0MB

目覚めると、そこは田舎を走る電車の中だった。そんな僕の前に、綺麗な女性が現れた。まるで僕の理想をそのまま形にしたかのような女性。誰もいない車内で、彼女と語り合うボックスシート。しかし実は……。全編モノクロームのグラフィックスが雰囲気を高めている、心温まる短編ノベル。

ここが○

ここが×

■神の恵みたえせず共にあれ

こんな有名作を今更私がレビューするのも気がひけますが、実はこの作品、以前にもプレイしていたみたいなんですよね。1年以上も、フラッシュメモリーの中に入りっぱなしになっていました。何故レビューを書いていなかったのか? 非常に謎です。「それじゃあ、またね」。良いタイトルです。

この作品をプレイされた方は、まずは地味なモノクローム表示に目が行くでしょう。しかしこの作品の雰囲気にピタリとマッチしていて、これは素晴らしい演出効果です。人気のない列車内というシチュエーションにも、非常に合っています。夜に車両内に人がいないような状態は、田舎では珍しい事ではありませんが、まさに今作で描かれているような雰囲気なのです。

さて、この作品は、プレイ時間で言えばわずか15分くらいです。選択肢はありません。読むだけです。ですが、15分でこれほどの余韻を残してくれる作品もそうないのではないかと思います。物語は、「僕」が列車内で出会った女性、更に突然絡んできた少女との会話に終始します。BGMはたった2種類ですが、時々思い出したかのように流れる列車の走行音が、非常に雰囲気を高めています。

この物語は、作り様によってはホラーにもなりうるものでしょう。自縛霊だの悪霊だのが話題に出て来ますからね。しかし、材料の料理の仕方が光る作品です。ホラーにもなる材料を、ちょっといじるだけで、「良い話」にしてしまった手腕は大したものです。加えて、語り過ぎず、淡々と描写する文章が、実に良いのです。

ただ、女性の過去というか存在意義というか、そういうのが全く語られないので、いざ彼女が何であるかを語られても、その土台が弱く感じたというのはあります。短編ですから、そこに文句を言うのは酷という気もしますけど。でも、後半から登場するセーラー服の少女については、とても上手に存在意義を作中で示していましたし、欲をかきたくなるところ。作中では、女性は主人公の理想の女性の具現化である旨の説明がありましたが、もう一押し彼女がその境遇になる意味付けがあれば、思わず膝を叩いたでしょう。

そして、冒頭の過去回想も少し気になりました。もちろんその必要性は分かるんですが、物語の中で冒頭の過去回想が生かされてるとは言い難いんですよね。これだけの短編ですと、あの事実は過去回想より、むしろ違った形で示した方が良いように思いました。

プレイ時間はたったの15分ですが、プレイ時間の何倍もの感銘を与えてくれる作品です。ただ、実行時のアプリケーション名が「吉里吉里」のままってのは、ちょっと苦笑しました。エンディングでは、終始モノクロだった物語中とは打って変わって、水彩画調のイラストが流れますが、これがまた良い感じに余韻を高めていてくれます。

私がここであれこれ書かなくても、これをお読みの方であればこの作品は既にプレイされているでしょう。しかし、もしプレイされていない方がいらっしゃったら、忙しくとも15分ほどをお裂きください。きっと、プレイする前より元気になれる事は、この私が保証します。

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