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冥王星と透明少女

【冥王星と透明少女】 推薦
■制作者/TRiC'L TiCk(ダウンロード
■容量/69.3MB

他人と関わることを極端に嫌う大学生、近江冥。彼がある日神社を訪れると、鳥居にぶら下がっている元気な少女を発見した。よく見れば彼女の体は透けている「透明人間」。彼女と出会って交流する中で、冥は彼女にひかれていき、段々自分自身を見つめ直して行く。強いメッセージ性に心が動かされるノベルゲーム。

ここが○

ここが×

■我信ず、故に我あり

何年もノベルゲームをプレイしていると、たまに全く期待せずにプレイしたのに、「うををを!」と感銘を受ける作品に出会う事があります。この作品が、まさにそう。「推薦」の名にふさわしいと断言します。何だか適当っぽいタイトルで甘く見ていたのですが、見事にやられました。

この作品の主人公は、化学を専攻する大学生。「πとナブラの正しい料理法」は数学系のネタでしたが、こちらは作中で簡単な化学の講義まで入って来ます。「πとナブラ」では、数学ネタは味付け程度でしたが、こちらはその化学ネタが後半でしっかり意味を持って来る辺りが上手いです。よくあるカレンダー消化型ではなく、全8章の章立てで読みやすいと思います。文章は、最初だけ少し固いかなと思いましたが、すぐに慣れました。

さて、この作品をあえて分類すれば恋愛ものでしょうが、恋愛描写は極めて薄く、どちらかと言うと主人公である冥の成長を描いた物語です。主人公の冥は他人との関わりを過剰なまでに嫌い、特に序盤は読んでいても「こんな主人公で一体どんな話になるんだ」と思わせられます。しかし、冥がまるっきり見所のない駄目人間かというとそうでもなく、些細な言動の端々には、実は結構共感できます。だからこそ、途中で投げ出すことなく最後まで安心して読め、また後半に自分で自分の道を切り拓く冥に感動できるのでしょう。

ヒロインは2人。透明人間の透子と、クラスメイトの仁美。ヒロイン2人とも、大変魅力的です。透子については、その存在意義(どうして透明人間なのか、とか)が作中で全く語られていないので、ここにもう少し踏み込んだ描写が欲しかったように感じました。そうすれば物語がもっと「分厚く」なったのに、と。

が、全部のエンディングを見ると、「そこを語るのは無粋かな」とも思え、むしろありがちで安っぽい過去が語られるよりは、かえって「これはこれでいいのだ」という気もします。また、仁美は登場時は「何この女?」という感じの描かれ方ですが、彼女がまた良い立ち位置のキャラ。仁美が少しずつ冥に歩み寄って来る様子が素敵です。

中盤以降は透子と仁美がかたくなな主人公冥の心を少しずつ解きほぐすのですが、既に書いたように、この物語で自分を変えていくのは、あくまで冥自身です。透子と仁美はきっかけに過ぎません。そういう、脇キャラが主人公と上手く絡んで主人公が自ら成長する様子の描き方、そして主人公とヒロイン2人の距離感の移ろいの描き方、更に主人公が少しずつ変わって行く様子の描き方が抜群に上手く、メッセージ性の強いシナリオとの相乗効果で、後半は非常に感動できます。

エンディングは3つ。エンドAは言ってみれば「透子エンド」、エンドCは「仁美エンド」、エンドBは「トゥルーエンド」という位置づけのようです。エンドAは、主人公が最後まで駄目なままで、「そのオチはどうなのよ?」なのですが(汗)、この作品の真価はあと2つのエンディング。エンドBとCでは非常に訴えかける力の強いラストが見られます。また、前半でちりばめられた小さなネタが、後半でカチカチと綺麗にはまっていく作りが緻密で、その隙のない作りには感心させられました。

特にエンドCで主人公が仁美の試合を観戦するシーン、そしてエンドBの主人公の教育実習シーンや、研究室を選んだ訳を語るシーン、透子が冥の名前について語るシーンなど、非常に心に残ります。個人的には、「A→C→B」の順に見る事をお勧めします。私はCを見た時点で「この作品は『推薦』だ」と思ったのですが、その後Bを見て、それをも上回るシナリオに感服しました。エンドBにおける主人公の成長ぶりは素晴らしく、思わず唸ってしまうほど。

ただ1つだけ残念なのは、読み終えた後、エンディング名だけ表示して、クレジットも何も表示されずにそのままタイトルに戻ってしまうのです。これだけ良い物語なのですから、エンディングはやはり欲しかったと思います。

音楽は全編ピアノで統一されていて、雰囲気を高めています。システムは吉里吉里。選択肢はありますが、攻略は難しくありません。プレイ時間は全部読んで3時間くらいでしょうか。自信を持って推薦です。是非お試しあれ。

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