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空のかけら、太陽のうた。

空のかけら、太陽のうた。 ■制作者/Nonlinear(ダウンロード
■容量/85.2MB

佐藤陽奈、平坂ひとみ、相田サキは、海沿いの片田舎の同じ高校に通う、仲良し三人組だった。甘えん坊のひとみ、いつも怒っているサキ、自由奔放な陽奈の3人は、時に衝突しながらも楽しく過ごしており、その日々はいつまでも続くと思われたが。オムニバス形式の長編学園ノベル。

ここが○

ここが×

■あの青い空に視界よし!

学園ノベルの型には色々ありますが、この作品は何とも分類しにくいタイプです。メインの登場人物は全員女性で、恋愛要素はほとんどありません。ある意味最近流行のタイプかもしれません。ネタバレを覚悟で分類を言えば、この作品はいわゆる「病院/不治の病もの」です。が、かつてないほど色々な要素が盛り込まれた長編物語で、かなりずっしりお腹にこたえます。

過去の作品では色んな意味で「Bye」に似ている作品です。まず、登場キャラごとのオムニバスストーリーで、それを順に読んで行く点も似てますし、登場キャラが誰もかれも妙に重い物を背負っているのも、あの作品を思い起こさせます。なので、実を言うとこの作品をプレイしての感想は、「Bye」と結構似たところがあったりします(汗)。

まずこの作品は、普通の作品で言うところの、プレイヤーの分身となる主人公が存在しません(実は後半で登場すると言えば登場するんだけど、彼の出番は結構すぐに終わってしまうからなあ)。それでいて、登場人物はみんなどこかヘビーなバックグラウンドを持っており、その上物語は各キャラの一人称で語られるため、読み手の感情移入ポイントがないのです。唯一わりと普通っぽいひとみがその役割を担ってくれればいいんですが、物語が核心に迫る後半には、彼女はほとんど消えてしまいます。そんな訳で、読んでいて終始「居心地の悪さ」みたいなものを感じてしまいました。

加えて、いろんな要素があまりにも盛り込まれ過ぎて、幹がぼやけ、細かいところも語りきれていないところが気になります。例えばサブキャラの奏にしても家庭環境が重く、ミドリや陽奈とも関わりがあるんですが、詰め込みすぎてそこらはあんまり生きていません。少しくらいそういう箇所があるならまだしも、終始こんな感じなのです。みんなヘビーな物を背負っている一人称の物語なので、読み手を疲れさせますし、その割りに心情が詳らかに描写されるというタイプではないので、キャラクターの心情が十分伝わってこないきらいがあります。

もちろん、オムニバス形式で色んな面から見ることで(同じ事件を別の角度から見る、というタイプではないですが)、後半へ行けば行くほど深まって行くシナリオというのは、描き出せていると思うんですが(特にミドリはなかなか面白い存在と思います)、どうもシナリオ前半の存在意義が薄い気がしてなりません。

一応、第1章や第2章でも後半への伏線が皆無という訳ではないんですが、実質的な物語は第3章からであり、前半の単調感は否めません。正直こういうタイプのシナリオならば、陽奈の闘病物語を前面に押し立て、瑞希も最初から出した方が、(展開の意外性では劣るものの)物語としてのまとまりはよくなった気がしてなりません。

この作品は、エンターテインメント性というよりは、テーマ性が強い作品だと思うんですが、そういう作品の場合、あえて無駄を削ぎ落として、テーマに特化したくらいの作りの方が、読み手に訴える力が大きくなると思うんです。盛り込み過ぎた故に、ラストにしても綺麗にまとまってはいるものの、「この物語の軸は何だったのだろう」と考えてしまうのです。シーンとしては綺麗で感動もできるんですが……。小道具ももう少し絞り込んだ方が効果的だったんじゃないでしょうか(桜のしおりとか、ガラスの欠片とか、日記とか、多いですよねえ)。

ただ、特に後半からの重苦しい展開の割に、読み手を重苦しくさせないのは、好印象です。この辺りは、心情が過剰に語られない独特の描写がプラスに働いていると思います。重苦しい展開をさらっと読ませてしまうところには、作者さんの筆力を感じますね。

イラストは、塗りが特徴的な非常に美しい絵です。水彩画風で、筆使いも繊細。フリーのノベルゲームではそうそう見ないタイプですね。また、立ち絵は2種類の縮尺を上手く使い分けて、効果を上げていると思います。1枚絵も数は多くはないですが、非常に美麗で見応えありです。また音楽はオリジナルらしく、どの曲もまんべんなく水準の高い出来映えです。

とまあ、シナリオ面についてだけだと、少々辛口になってしまったのですが(汗)、序盤からは想像もつかない、正統派の「感動系病院もの」です。システムはNScripter、プレイ時間は5~6時間で選択肢はありません。前半が少々退屈なのは否定しきれませんが、感動もの好きであれば、後半の展開はツボにはまるのではないかと思いますよ。

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