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靖国にゆく亡霊

靖国にゆく亡霊 ■制作者/児玉守(ダウンロード
■容量/2.61MB

太平洋戦争の末期、伊-58潜水艦に搭乗していた主人公である兵曹長。戦争が終わり、主人公の自宅にアメリカ兵がやってくる。伊-58潜水艦の処分のためだったが、乗り込んだ潜水艦には何と死んだはずの仲間達がいた。彼らの運命やいかに? 自作プラモデルを使った背景が見事な、風変わりな戦記ノベル。

ここが○

ここが×

■各員一層奮励努力セヨ

ノベルゲームを作る際、どこに一番力を入れるかというのは作者さんによっても分かれるところでしょう。シナリオかも知れませんし、立ち絵かも知れません。ムービーに驚くほど力が入った作品も珍しくありません。しかしこの作品のような方面に力が入った作品は初めて見ました。この作品のテーマは太平洋戦争なのですが、背景に使われている潜水艦やら駆逐艦の画像が、全部作者さんの自作プラモデルを使用したものなのです。

作者さんのページを見てみると、多数の自作プラモデルの画像が展示されており、写真も見事なものです。これが、アニメ絵や実写にはない独特の雰囲気を出しています。人物の立ち絵は一切出て来ませんが、この背景が、シンプルながら大変すぐれた演出にもなっているのです。

物語は、太平洋戦争の末期から終結後。主人公は潜水艦伊-58に搭乗していた兵曹長でした。が、アメリカ兵に連れられて戦争後にその潜水艦に乗り込んでみると、死んだはずの仲間が生きており……という内容。戦記ものなのですが、以外にもファンタジーな感じの展開です。

ただ、筆致が良い意味で淡々としているので、戦記とファンタジーという、ある意味不適合とも思える2つのテーマが、ほどよく融合していたように思います。亡霊が潜水艦を操るという「ありえない」展開ですから、あまり描写を凝らずに淡々と進めたのは正解だったと感じます。「回天」(特攻用の人間爆弾)の発射シーンも、驚くほどさらっと流されます。これが描写に凝り過ぎていたら、きっと嘘くささが目立つ物語になったのではないでしょうか。

とは言え、物語としてみると少々淡白な感もあります。中盤から元乗組員たち(の亡霊)が搭乗しますが、前半での人物描写が希薄なため、会話主体で進行する物語である割りに、中盤以降の牽引力に欠ける印象があります。もう少し、前半で乗組員たちの人間模様に筆を裂いてみてもよかった気がします。あるいは、主人公の葛藤をもっと描いてみても良かったかも知れません。それだけでかなり印象が違ったはずです。良い意味で淡々とした文章、展開ですが、要所ではもう少し「粘る」ところがあっても良かったのではないでしょうか。

音楽はすべて素材ですが、プラモを使った背景同様に効果音もこだわっており、有料販売されている素材です。この手の作品で、魚雷の発射音とか爆発音が嘘っぽかったら興ざめですからね。確かにその他の演出回りは全体に地味なのですが(描写が淡々としている事とも関係あると思います)、全体に「渋い大人の雰囲気」が漂ってきます。

そして、ラストからエンディング。ここも演出面で見れば地味ですが、仲間達の敬礼には思わず見ているこちらの背筋が伸びる思いでした。エンディングでは、背景で作ったプラモデル達を見ることができますが、そういう箇所にも作者さんのこだわりが感じられ、短編ですが「良い仕事されましたね」という感じです。

プレイ時間は30分。選択肢はありますが、数が少ないですしミスすれば即終わりなので、攻略は簡単です。ツールは久々のコミックメーカー3(!!)。決してプレイしやすいとは言えませんが(読み返しもしにくいですし)、それほど読みにくさはありませんでした。女性が1人も出て来ないという、渋い「漢」の物語でありながら、ちょっとファンタジーという変わった作品。たまにはこんな作品も良いものです。

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