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Beyond the Fairy Tale

Beyond the Fairy Tale ■制作者/Sky Rush(ダウンロード
■容量/5.06MB

紗希は16歳の学者。父が生み出したバイオロイドである紫苑と共に暮らす日々だった。ある日、家に海外の父から小包が届く。いぶかしげに包みを解いた紗希の前に現れたのは、分厚い1冊の本だった。書かれた内容に、紗希は思わず目を見開く。シンプルでテンポが良いSF恋愛物語。

ここが○

ここが×

■胸の回路はフリーズ寸前

立ち絵があるかどうかというのは、ノベルゲームの見た目を大きく左右しますが、私は見た目をそれほど気にしません。概して、立ち絵がない作品は、ほとんどの場合テキスト表示領域が広いですから、「読ませる」文章で勝負する作品が多いように思えます。立ち絵があるアニメ風の進行をする作品とは、少々土俵が違う訳ですね。

ですから、立ち絵がない作品というのはなかなかなくなりませんし、独自の魅力があると思います。この作品は、一度公開された物を作者さんがリメイクされたそうですが、リメイク前は800x600だった画面サイズを、640x480に小さくしたそうです。立ち絵がない場合は、案外これくらいが読み易いかも知れません。

Beyond the Fairy Taleさてこの作品は、立ち絵がないから分からないかも知れませんが、ストーリーを見てみればいわゆる「乙女向け」に分類されるような作品です。初出は2006年ですからかなり古い作品ですね。舞台は近未来と思われます。主人公である紗希は16歳の女の子ですが、凄い秀才で既に学士を取り、学者として活躍しているという設定(その設定は正直あまり生かされている気がしないのですが)。そして、彼女の元にいるバイオロイドと呼ばれる、生体ロボット紫苑との関係を描いた物語です。

少し設定がSFっぽく、そのような描写もある事はありますが、純粋な恋愛ものと言って良い内容です。16歳の女の子とロボット(バイオロイド)という、ちょっと変わった恋愛ものですが、お相手の紫苑の描写がなかなか面白く、テンポがよい文章力が高いテキストもあいまって、ぐいぐい読ませる力を持っています。文章は、この手の作品では珍しい三人称です。

が、主人公である紗希の側からの描写が少々弱いところがあるため、叙情面につきましては少し食い足りない点が感じられるのは否めません。せっかくの三人称ですから、もっとそれを活かした描写があれば、恋愛ものとしての読み応えをもっとアピールできたのではないでしょうか。紗希が紫苑にひかれているという説得力のある描写が、もっとあっても良かった気がします。

物語の作りとしては、非常にシンプルです。全体は三部に分かれていますが、全体は基本的に1つのエピソードで出来ていると言ってもいいほどです。その1つのエピソードを詳しく描写する事でシナリオが成立しているんですが、描写のバランスや展開のテンポが良いため、読み心地が良い物語です。シナリオとしてはほとんど捻った事がない直球の作りですが、丁寧な文章とキャラクターだけで、上手に「読ませる」作品に仕上がっています。

気になった点ですが、やたらと出て来るルビが、ちょっと中二っぽいというか……(笑)。一例を挙げますと、「回路」が「ずのう」「アタマ」だったり、「御主人様」が「マスター」だったり、「技術屋」が「りょうしん」だったり、「曲がり角」が「にじゅうごさい」だったり(??)、「連絡」が「コマンド」だったり、「ある種のセンサー」が「ぼくのめ」だったり(???)、もう履歴を見返すと「えーと」という状態になってしまいます。こういうのは時たま使えば、文章を彩るエッセンスになってくれますが、やはり物には限度というものがあるように思いました。

この物語において、事件解決というか、恋愛成就に至るロジックの詳しい点については、ほとんど描写されていません。なので冷静に考えれば、結構理不尽な展開をしている気がしなくもないんですが、紫苑のちょっととぼけたキャラクターが面白く、「これはこれでありかな」とも思えるのが不思議なところです。展開速度と、全体の長さがちょうど良かったためかも知れませんね。

ただ、全体にシンプルな展開をするシナリオにあって、後半はなかなかの盛り上がりを見せるのですから、何かもう一捻りが欲しかった気がします。あるいは、捻らずとも、ラストにもっと納まりの良い展開を持って来るとか。決して読後感は悪くないのですが、どことなくもやもや感が残ってしまったのは私だけでしょうか。ま、論理的な展開をする物語という訳ではないので、あの終わり方がもしかしたらちょうどいいのかも知れません。

システムは吉里吉里。プレイ時間は1時間ちょっとで選択肢はありません。主人公が女性ですが、男性が読む分にも全く問題はありません。「読む」事を意識してプレイできる作品は、やはり大事にしていきたいものです。

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