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葬送カノン

葬送カノン ■制作者/branznew(ダウンロード
■容量/107MB

湊と保奈美の兄妹は、両親を火事で失い、保奈美自身も精神的に不安定な状態だった。いつものように大学へ行った湊は、やがて奇妙な人間関係に巻き込まれていく。事件の真実とは一体? 進む度に意外な展開が待ち受けている、独自の世界観の長編作品。

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この作品は、分類が難しい物語です。恋愛ものではありませんし、何と呼びましょうか。「死生観ノベル」? そんな感じです。シナリオの作りとしては、分岐型ノベルを1本クリアする度に、新しいシナリオへの扉が開き、スタート画面から次のシナリオへ進め、それが3本あるという構成。そして、その3本のシナリオは、世界観を共有した3人のライターさんによって書かれた物語だそうです。

よくある、分岐から別のライターが担当するという作品ではなく、1本まるごとを1人のライターが書き、2本目、3本目と進むにつれ、だんだん事件の全容が明らかになっていくという作りです。この作りはなかなか凝っています。その分、分岐は「間違えたら即死」なものばかりで、バッドエンドで特に裏の事情が分かる訳でもなく、分岐ノベルとしての面白さは薄いですが……。

葬送カノン出だしから大変重苦しい展開です。湊と保奈美の兄妹は、両親と家を火事で失い、2人で暮らしているという設定。更に、火事の後遺症か、保奈美は精神的に不安定で、拒食、不眠もあるという状態です。保奈美の立ち絵が非常に痛々しいのが特徴です。立ち絵の絵柄が丁寧で、雰囲気にとてもマッチしています。

このような序盤から始まり、1本目のシナリオの後半から、とんでもない事実が明らかになったりして、物語としての展開は波乱に富んでいます。ただ、展開は非常に意外性があるんですが、意外性がありすぎて、ちょっと説得力がなおざりになっているところがあるのが、若干気になります。

それと、世界観を消化しきれていないところがあるのも目につきました。例えば、「童話」と呼ばれるチャットルームに関してだとか、謎の医師四郎に関してとか、宗教組織「全一」とか、全てが詳細に描写される訳ではないので、少々読んでいてすっきりしないところがあります。

また、特に3本目のシナリオの意外性には驚かされましたが、意外な反面唐突すぎるきらいもあります。「そんな重要な鍵を握る人物がいきなり登場するって、どうなのよ!?」と思わないでもありません。3本目で出て来る人物については、やはり前半から何らかの言及が欲しかった気がしますね。そうする事で、全体の印象がかなり違ったと思うんですが。

ただ、全体を貫くメランコリックな空気感とか、重いものを背負いながらも生き生きと描写されているキャラクターは魅力的です。3本のシナリオがきっちりまとまってひとつの幹を形作っているかというと、必ずしもその試みは成功しているとは言い難いのですが、逆に、3人のライターによって書かれた作品ならではの魅力があります。読んでいて「不意打ちを食らわせられる感覚」を何度も味わえる、とでも言いましょうか。

特に、3本目のシナリオは、確かに唐突感が強い事は否定できないのですが(読み始めてしばらくは、語り手に対して「誰だよあんたは」状態だった)、物語の全体を締めくくるに相応しいラストを描写しており、ハッピーエンドとは言い難いのですが、かなり濃厚な読後感を残してくれます。惜しむらくは、上でも書いたようにそのための伏線が前半から欲しかったというところなんですが、そこはそれ、この作品の魅力と表裏一体というところでしょう。特に、ラスト近く、主人公の妻と娘に対する描写は、胸を打つ名シーンだと思います。

ツールは吉里吉里で、全部読んで4~5時間というところ。エンディングは4+3+4で11ですが、選択肢をミスればバッドエンド直行なので、難易度は低いです。読了したらおまけシナリオも多数読めますので、満足度も高いと思います。重い物語ですが、類似のシナリオを持つ作品をちょっと思いつかない、オリジナル性の高い物語です。この作品にしかない魅力を持つ、個性的な作品だと思いました。

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