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箱庭のうた

箱庭のうた 推薦
■制作者/タクティカルシンパシー(DL
■容量/219MB

涼介が通う中学校には、夜になるとお化けが出るという噂があった。そんな中涼介とある日忘れ物を取りに夜の学校へ行くと、そこで見知らぬ少女と出会う。記憶喪失だという彼女、佐藤ことりに隠された真実とは一体。ラストにしびれる長編SF青春ノベル。

ここが○

ここが×

■瞳で始まるコンタクト

レビュー開始から10年ちょっとで、通算30本目の「推薦」作。今年はこれで3本目ですから、なんだかんだで結構当たり年なのかも知れません。出ない時は1年以上推薦が出ずに、不安になる事もありますが、先日の「ポックリが鳴った夏」に続いて、短編、長編と続けて良い作品を読めて、大変満足。夏の離島が舞台のカレンダー消化型ですから、そこだけを見れば過去に似た作品がいくつかありますが、それらのどれとも全く違う雰囲気の作品です。

この作品、最初はヒロインであることりが「敵」を腕から発する光で一刀両断にする、という展開なので、伝奇ものかとも思わせるんですが、実はSFです。言ってみれば並行世界ものと言えましょう。序盤から並行世界の描写も頻繁に挿入されますが、最初はプレイヤーもよく把握できていないので、途中までは何が何だか分かりません。また、中盤までは(この手のカレンダー消化型にありがちですが)、日常イベントの描写が長いので、ちょっとだれてしまうのはしょうがないところ。

箱庭のうたしかし、第3章でちょっと大きな事件が起こり、その辺から物語が加速し始めます。同時に、並行世界との繋がりも徐々にプレイヤーに伝わり始めます。多分ほとんどの人は、とあるイベントで「ああそういう事か。え? そうすると……」となるでしょう。

ラスト近くは、実はそこまで緊迫感のあるイベントはありません。が、並行世界の謎が徐々に明らかになり、ラスト近くでプレイヤーに「先にうすうす感づかせる」ことで、巧みにプレイヤーの心理を操って、非常に盛り上がるラストシーンを作り上げているのがさすがです。ラストからエンディングへの流れ、またその後のエピローグの締め方がもの凄く綺麗で、読んだ後はうーむと唸ってしまうほど。

ただ、せっかくあれだけ綺麗なエンディングなのですから、あのエンディングに重要となる「とある要素」は、もうちょっとシナリオ内で大きく扱っても良かった気がします。涼介、最後まで適当に弾いてるだけだったし(笑)。その反面、それ以外の様々な要素がこれでもかと盛り込まれているんですが、肝心の主人公が絡む要素がほとんどなかったため、唯一主人公がきちんと絡む、あのエンディングのあれは、きちんと展開を描いて欲しかったなあ、なんて。

この作品、登場人物がかなり多いんですが、それぞれのキャラクターがくどくない範囲で個性的ですし、ただいるだけというような適当なキャラがおらず、ほとんどのキャラにちゃんと見せ場が用意されているのが見事です。それも、ライバル役のようなキャラクターにも、ちゃんといいシーンがあります。基本的に登場人物に悪人がいないというのが好印象ですね。友情がどうのこうのというような描写には、ちょっと子供っぽさを感じなくもありませんが、登場人物が中学生ですし、それにこれは「SF青春ノベル」ですから、これでいいと思います(笑)。

とは言え、盛り込み過ぎな感があるのも否定しきれません。並行世界側の登場人物はさらっと流されるだけで、ちょっともやもや感が残りますし、何せ主人公があまり活躍しない上(第3章でちょっと活躍するかな)、サブキャラが強いので、あれこれ盛り込んだ結果、ちょっと主人公が霞んでしまっている気がします。とは言え、「無感動無表情だったことりを変える」という点においては、涼介は大活躍しているとも言える訳ですし、それはこの作品の大きな幹の1つですから、そう考えればこれはこれでありなのかも知れません。

この作品はワイドですが、あまりワイドならではという感じがしません。ワイド画面だと、立ち絵がどうしてもバストアップ主体になってしまい(1枚絵も)、それはそれで表情などはしっかり見せられますが、逆にポーズによる演出とかそういうのは弱くなる訳で……。とは言え、オリジナルと思われる背景画は、大変よく出来ており、夏の離島の雰囲気を大いに高めています。

ツールはYU-RIS。選択肢はありますが1本道です。プレイ時間は、13~15時間くらいは見てください。中盤までがちょっとだれるんですが、特にラスト近くの展開はしびれます。どうか中盤までで挫折せず、エンディングまでたどり着いてください。これほどの読後感の作品には、なかなか出会えませんよ。

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