Beyond the summer
推薦
■制作者／あいはらまひろ（ダウンロード）
■容量／10.3MB
梅雨の合間だと言うのに、夏のような空。変わり映えのない毎日にうんざりしていた主人公は、通学電車の中でふと思いついた。「このままどこかへ行ってしまおうか……」。変わらないのは毎日ではなく自分自身。マルチシナリオの青春恋愛ノベル。
ここが○
- 心理描写が緻密で丁寧なマルチシナリオ。どのシナリオも万遍なく出来が良い。
- 画像小さめの独特の画面レイアウトが、結構雰囲気出ている。
- 文章はしっかりしていて、非常に読みやすい。
ここが×
- 怖すぎる電車の走行音（笑）（注・最新版では修正されています）。
- もうちょっと画像が豊富ならもっと良かったかも。
- エンディングがもうちょっと凝ってれば。
■たまには違った日常を探しに
準推薦か推薦か悩みましたが、久々に「推薦」作品。個人的に、こういう心理描写で読ませる恋愛ノベルには弱いんです（笑）。てことで「Beyond the summer」をご紹介。
この作品、見た目は非常に地味です。音楽も素材ですし（使いどころは良好だと思います）、キャラの立ち絵もありません。しかし、この作品が何より秀でているのはその文章。恋愛ものの肝とも言える心理描写が非常に巧みで、実に自然。そしてキャラクター描写がまた非常に上手いです。マルチシナリオなんですが、どのヒロインも魅力的（全部クリアした訳じゃないんですけど）。文章自体もとても読みやすくかつ変なてらいがなく、画像が少ないのに頭の中で容易に補完できました。この作者さんの文章力は大したものだと思います。
で、マルチシナリオと言う事は、好感度やら何やら、エンディングに関わってくる選択肢が当然あるわけなんですが、今作は親切にも「エンディングに関わる選択肢」と「その場の展開が変わるだけの選択肢」を教えてくれます。選択肢で数字が出るのが「エンディングに関わる選択肢」で、星が出るのが「展開が変わるだけの選択肢」。個人的には、非常にありがたい配慮だと思います。攻略重視な方だとこう言うのは余計なお世話かも知れませんが、セーブポイントを絞り込めますし、私のようなヌルい（笑）プレイヤーから見るとこういう小さな点が実にありがたいものです。
難点と言いますか……ストーリー紹介で書いた通り、冒頭は通学電車の中から始まるんですが、その通学電車の走行音のSEがあまりにも怖すぎます（笑）。いえ、MIDIでガンショットの音を重ねて電車の音を作ってるんですが、私が繋いでるMU2000だと、拳銃の音が次々響いてるように聞こえて怖いです。Win標準のGSウェーブテーブルシンセだと、割とそれっぽく聞こえるんですが……（苦笑）。（注・最新版ではこの問題は修正されています。私のレビューで作者さんに余計なお世話を取らせてしまったようで……（汗））
あと、立ち絵がないのは気になりませんが、背景画像がもうちょっと豊富だったらなあ、とか、エンディングがもうちょっと豪華だったらなあ、なんて思ったりもしましたが、これはまあ贅沢と言うものでしょう。作者さんはこの作品をほとんど１人で作られたようですしね。それを考えると、これだけきちんとしたマルチシナリオの恋愛ノベルを、よく作られたものだなあと感心させられます。
そして、そんなに重いテーマを取り扱ってる訳ではないんですが、テーマ自体にもなるほどと頷かせられるものがあります。それでいて、各シナリオは綺麗なハッピーエンド。読んだあと、きっとほんのり暖かい気分になれる事でしょう。
文章力は文句ないですし、恋愛ノベルが好きな方ならきっと楽しんでいただける作品だと思います。ナローな方にはちょっときつめの容量かもしれませんが、ダウンロードしてみる価値は多いにあると思いますよ。お勧めの一作です。