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イリュージョン~記憶のカケラ

【イリュージョン~記憶のカケラ】 準推薦
■制作者/イツキ(ダウンロード
■容量/89.1MB

ある日、交通事故に巻き込まれた主人公。命に別状はないものの、一部の記憶を失ってしまった。そんな事は気にもせず、幼なじみや悪友と、変わらぬ学園生活を送っていたが、ある日見た夢に登場する幼い少女。彼女は誰なのか? そして失った記憶は? 出だしで甘く見ているとラストで舌を巻く、マルチエンド恋愛ノベル。

ここが○

ここが×

■貴方と私に真実を

正当派の、学園マルチシナリオ恋愛ノベルゲームって、実は案外少ないような気がします。最近ご紹介した中では「ムゲンの絆」がそうでしたが、私がレビューした作品でも、この手の作品は思いの他少ないようです。今回は、正当派学園恋愛ノベルとしては、意欲的な試みで面白く読める作品「イリュージョン」のご紹介。

この作品は、別に新しいところはありません。主人公(名前任意)が交通事故で記憶を一部失ったというのがちょっと変わっていますが、これも描写で上手く溶け込ませており、違和感はありません。そして、主人公の幼なじみに悪友と、お決まりのパターン。いえいえ、お決まり大歓迎。お決まりのパターンこそ、実は作者さんの力量が最も試されるものですから。

まずはいきなり苦言から。この作品は、物語の肝とも言える主人公が見る「夢」で、文字表示にウェイトがかかる演出がありますが、これがもの凄く苦痛。2回目以降のプレイでは、途中の「夢」は既読スキップで飛ばせますが、「始めから」で開始した時の、最初のだけは、絶対飛ばせません。飛ばせない上に、このゲームは部分的に声付きなんですが、いきなり子供(演じているのはもちろん子供じゃないでしょう)の泣き声を、ゆっくりゆっくり表示される文章とともに聞かされます。これは、凄まじいストレス。一度読んで終わりの作品ならまだしも、この作品は難易度も結構高く、何度もこの場面を見る羽目になります。正直、私はマウスを破壊したい衝動に駆られました(爆)。この手の「テキストゆっくり表示」は、基本的にプレイヤーのストレスにしかなりません。エンディングや、とにかくここぞという場面でのみ使うべきです。

さて、この作品のツールは「Live Maker」ですが、ツール自体が進化しているのか(以前は開始時に開発者?のロゴが表示されていたが、この作品では表示されなかった)、プレイ感覚はかなり快適。もしかしたら、今後Live Makerは、ノベルゲーム開発ツールとして1つの派閥を築くかも知れませんね。

物語は、主人公が事故で失った記憶をメインテーマに進みます。そして、主人公が失った記憶、隠された真実。これがなかなか驚くような内容で、かつシナリオ内で謎が少しずつ明らかになるバランスが大変良いのです。つまり、「プレイヤーが『これはもしや?』と真実に気付く度合いと、シナリオ内で主人公が少しずつ真実に到達する度合いが、シンクロしている」のです。これは特筆すべき点です。これが全然シンクロしていないと、「プレイヤーは訳が分からないのに、登場人物が勝手に謎を解いている」、又は「プレイヤーはとっくに謎に気付いているのに、登場人物がいつまでもお芝居を続けている」事になり、どちらも寒々しいだけ。このシンクロ感覚、バランス感覚はお見事です。

で、シナリオ。メインヒロインは瑞希でしょうね。瑞希シナリオは良くできています。美由シナリオは、お気軽な恋愛シナリオ。恋愛に至る描写が弱いですが、こういうシナリオも良いでしょう。ただ、沙羅シナリオがちょっと蛇足っぽいというか……。瑞希シナリオで明らかになる事実で、沙羅シナリオも進む事になるんですが、瑞希シナリオのプロットでもう1本話を作ろうと、ちょっと欲張ってしまった感がありますね。「夢」などで伏線も細やかに張っていた瑞希シナリオに対し、沙羅シナリオは若干唐突に感じました。

あと、難易度は高め。この辺は、ヒントか何か欲しかった気がしますね。冒頭の「テキストゆっくり表示&泣き声攻撃」がなければ、ここら辺の印象も変わったかも知れませんが、学園恋愛ノベルですから、難易度はもうちょっと甘い方が印象は良いように感じます。

グラフィックスは、立ち絵、1枚絵とも非常に綺麗で上手いです。また、エンディングでは歌が流れ、その歌もエンディングで違うという念の入れよう。音楽はおなじみの物が多いです。MIDIとMP3がごっちゃになっているのはちょっと気になりました。

私のレビュースタイルの問題から、辛い事ばかり書いてしまいましたが(汗)、始まり方こそ「お約束」とはいえ、お約束だけではない意外な展開を見せてくれて、お約束満載の展開も味わえる、学園恋愛ノベルとしてはかなりの秀作です。難易度は高めです。ノーマルエンドで投げず、是非グッドエンドを、特に瑞希のグッドエンドを味わってみてください。巧妙に仕組まれた伏線に感心させられるはずです。

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