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さよなら C.C Summer Days

【さよなら C.C Summer Days】 準推薦
■制作者/ヨーグルシンジケート(ダウンロード
■容量/44.4MB

小さな地方都市、加納町の駅で降りた男勝りの女子高生、進藤奈津希。駅で待っていた若い男に案内され、彼女が行った先で出会ったのは、自分に顔の良く似た兄妹だった。不治の病を患った妹と、彼女を治すために医者になった兄。兄妹を取り巻く人たちと、兄妹の懸命の戦いを描いた、シリアスな「闘病」ノベル。

ここが○

ここが×

■医者曰く、「お大事に」

いわゆる「病院系」。病院系は久々ですが、一時病院系ばかり続いた事もありました。ノベルの題材としては取り上げやすい素材という事でしょうか。この作品は主人公が医師とその妹という設定。主人公は不治の病の妹を治すために、医師になっています。病院ノベルというより、「闘病」ノベルとでも言えそうな内容です。

病院ものの場合、物語の大きなテーマが「不可能の克服」となる事が多いですが、その場合は不可能の克服に、納得できる理由と裏付けがなければなりません。そうでないと、非常に胡散臭い物語になってしまいます。もちろん、それ以外の要素でシナリオを組む方法もあるでしょうが(「You've got a friend」のように)、やはり「病との戦い」という不可能の克服をいかに描くかが、病院ものの醍醐味ではないかと思うのです。なぜなら、「不可能を結局克服できませんでした」というシナリオの方が、物語として仕上げる難易度は遥かに跳ね上がるからです。

そしてこの物語ですが、前提となる「譲が医師を目指す過程」が、過去回想の形で上手に盛り込まれています。本来なら「妹の病気を治すため医師に」というのが、既にかなり無理があるはずなんですが、今作はそこを非常に上手く描いていて、「過去」によって「現在」に、的確に説得力を持たせる事に成功しています。過去回想は諸刃の剣になる事も多いんですが、この作品においては大成功であると言えます。同じく回想で、妹であるつぐみとの楽しい1日のエピソードを入れたのも成功でしょう。

肝心の「病を克服する」過程は、適度にリアルに、また適度にデフォルメされており、これまた説得力のある、それでいてフィクションならではの提示をされており、この描き方でこの物語が成功していると言っても過言ではありません。

中盤以降は特に予想外の展開をする訳ではないんですが、流れが澱まず、冒頭に登場する女子高生奈津希の出生の秘密なども絡めて、キャラクターがシナリオを引っ張り、シナリオがキャラクターをもり立てると言う、非常に良い循環を生んでいます。作者さんの物語構成力は大したものだと思います。主人公達も誠実に描かれ、とても魅力的です。

ただ、非常に頻繁に視点変更(一人称が変わる)があるんですが、これは分かりにくい上に効果を上げているとは言い難いです。こんなに頻繁に視点を変えるなら、いっそ三人称で記述しても良かったのではないかと感じます。

また、中盤の山場として「研究が成功し、つぐみが治療可能である事が分かる」という場面がありますが、ここが視点変更に紛れて、非常に曖昧な描き方になっているのが、大変惜しまれる点です。あそここそ、じっくりと描けばもう一段完成度が上がったんじゃないでしょうか。この物語において後半は、むしろ予定調和とも言えるものですから、あの場面をもうちょっと感動的に読みたかった気がします。

もう1つ、ラストにあと一捻りがあればと思いました。この作品は、シナリオの流れの組み方は非常に上手いですが、伏線を組み合わせ、後でそれがほぐれていくという作りにはなっていません。そこに一工夫があればと。最近で言えば「こんな物語」のような、「演出的伏線」がラストで上手く収束する展開であれば、ラストの感銘は更に上がった事でしょう。ラストシーン自体は凄く綺麗に決まってましたので、ラストの展開自体にもう1つ盛り上がりがあれば、「推薦」にしていたかも知れません。

この作品、シナリオから絵から、ほとんど作者さんが1人で作られたもののようで、その努力に感服します。とは言え、後書きとかおまけシナリオ(クリア後、右下のチェックボックスをチェックすれば読める)は、ちと暴走し過ぎのような。本編の感動が台無しになる恐れもあります(笑)。その分本編が良く出来ているとも言えますけど。ちなみに本編でもいくつかギャグは盛り込まれていますが、そちらは許容範囲でしょう(譲とつぐみが見に行く映画のタイトルに、思わず笑いました)。

プレイ時間は2時間くらい。選択肢があって一応分岐はしますが、「ミス=即死」みたいな選択肢もあり、事実上はほとんど一本道です。病院系シナリオとしては、かなり上手に組まれた良作と言えましょう。後書きは読まない方がいいかも知れません(笑)。

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