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いつか重なり合う場所で

【いつか重なり合う場所で】 ■制作者/Perpetual Room(ダウンロード
■容量/75.3MB

シアンは16歳の少女。16歳の誕生日に、ちょっとした買い物に出かけた。しかしその道中、思わぬ災難に見舞われ、死者の世界を旅する事になる。タイムリミットは1ヶ月。旅する世界で出会う、色々な人、そして彼女自身の生きる事への想い。果たしてシアンは……? 近未来を舞台にした、風変わりな設定のファンタジーノベル。

ここが○

ここが×

■リアルとロジカルと

Love Mail」「彼氏彼女の気持ち-re」の作者さんの作品。前作は普通の恋愛もので、前々作は変わった設定のサスペンス。そして今回はファンタジーっぽい感じの作品です。今作をあえて分類すれば「現世復帰もの」です(また勝手な造語を……(笑))。

舞台は一見近未来っぽい雰囲気です(そこらが読んでてはっきりしない感もあります)。主人公シアンは、冒頭でいきなり車に跳ね飛ばされ、死者の国をさまよう事になります(完全にひき逃げじゃないか(笑))。そして、如何にして現世に帰るかがテーマとなるんですが、このような非常にフィクション性が強い作品の場合、いやだからこそ、シナリオや設定には「論理性」が非常に求められると思うのです。

それはそうでしょう。物語はすべて「どうしたからどうなった」という、因果関係の積み重ねです。そして因果関係を支配する法則は論理性です。たとえ設定自体はリアルでも、そこを「何となく」でやってしまうと、非常に「都合良すぎて乗れない上、全体として変」な物語になるのです。

「論理的である(ロジカル)」事は、決して「現実的である(リアル)」事と等価ではありません。フィクションで設定に無理があっても、展開がロジカルであれば、少なくともその世界においては、その奇想天外な展開と設定を、読者に納得させ得ますが、リアルでもロジックをお粗末にすると読めたものではなくなります、いわんや、フィクション性が強い作品でロジックが破綻していれば、それはとうてい1本の線として読者の頭の中に想像できる世界、物語ではなくなる事は、容易に想像できましょう。

この物語は、非常にフィクション性が強いです。それはいいんですが、とにかく論理性が皆無と言ってもいいのです。主人公の行動も全て適当。適当の結果、適当な方向へ物語が進む。なので、物語を読む(「物語に浸る」と言っても良い)という喜びが大変薄いのです。例えば、死者の世界で主人公達が次の世界へ移動するくだり。移動のための駅を探すのですが、それが完全に運。その繰り返し。これでは読者を惹き付ける事は難しいでしょう。

例えば、列車は特定の世界で特定の時間停車して、その時間だけ行動できるが、時間内に駅に戻らないといけない、なんて設定にしただけでも、説得力は全く違ったはずです(それじゃ銀河鉄道999ですけど(笑))。表面はおおざっぱな流れでも、内部は緻密に。これがシナリオの組み方の大前提だと思うんですが、この作品の場合「表面は緻密だが、内部は非常に大雑把」になってしまってるのですね。

あと、矛盾が多いです。「死者だから疲れを感じない」という表記があったかと思えば、「疲れを感じた」とあったり。この作者さんは、キャラクターとか場面の描き方ではとても良いものを持っているはずですので、論理的な物語作りを心がけられるだけで、完成度は大幅に変わるはずです。「論理的」と言っても、難しい事ではありませんし、もちろんお話が理屈っぽいという意味でもありません。「何故そう行動するのか」「どうしてそういう結果になるのか」をきちんと繋げる事。そうすればシナリオは段々網の目のように構築され、その論理性がシナリオに説得力を生み、その網の目のような構築が新たな論理性を生むのです。展開がどうとかは、次の段階の話です。

また以前も思ったんですが、この作者さんは、やたらと「~のであった」という語尾が多いのも気になります。語尾は目立たないようでいて、案外目に付くもの。少し変えればかなり印象が変わるのではないでしょうか。キャラクター自体は魅力的ですし、良い場面も多いのですから。

立ち絵を含め、イラストは非常に綺麗です。シナリオは展開のテンポ自体はとてもよく、さくさく読めますので、ちょっと変わるだけで凄く良くなりそうな印象もあります。プレイ時間3時間弱。選択肢はありません(ただし、フォントサイズが小さすぎるのには参りました)。物語自体は、結構緊張感があって楽しめます。身構えず、気軽に読むのが良い作品だと思います。

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