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ゆりの印象

【ゆりの印象】 ■制作者/天祐堂(ダウンロード
■容量/26.3MB

主人公の関孝史は高校3年生。ある雨の日、学校の中庭で白いワンピースの女性と出会う。まっすぐな黒髪と綺麗な横顔。孝史は愛想良くその女性に声をかけるが、にべもなく拒絶されてしまった。孝史は女性と再会すべく、図書館に通い詰めるが。静かな文体が哀愁を感じさせる、短編恋愛ノベル。

ここが○

  • 静かで落ち着いた文体。
  • 嫌味のないキャラクターメイキング。
  • 要所で入る一枚絵が雰囲気を高めている。

ここが×

  • 後半の展開がちょっと唐突気味。
  • 盛り上がりどころがあまりあるとは言えないストーリー。
  • 肝心の「不治の病」ネタは、もう少し踏み込んでも良かったのではないか。

■あっさり、だけどしっかり

今までいわゆる「病院もの」は数多く紹介していますが、この作品はそういうジャンルの作品です。この作品は、分類すれば「不治の病」ものでしょうね。「病弱もの」というほどには病弱な感じの描写はないですし、病院は舞台として登場しないので「病院もの」でもないし、闘病シーンがないから「闘病もの」でもないですし。「PISSENLIT」が雰囲気的には近いかも知れません。高校3年生の主人公と、大学生のヒロインが出会うところから物語が始まりますが、ヒロインが実は不治の病で……という展開。

この作品は、まずは過剰に飾り立てない、落ち着いた文体が好印象です。こういう、少々重めのテーマを取り上げた上で、更に文体が重苦しかったり、レトリックが過剰だったりすると、それだけでプレイヤーに負担をかけるものですが、整っていてそれでいて抑えめの文体が、テーマとよく合っているように感じました。

またキャラクターは2人(+α)ですが、ちょっと軽めの主人公と、大人びたヒロインの、これまた静かで抑えめなやり取りが、作品世界とよくマッチしています。この手の作品の主人公って、妙に内省的だったりする事が多いんですが、要領よく愛想が良い主人公は、作品世界に読み手を引き込む事に成功しています。

ただ、こう言ってしまっては何ですが、テーマの割りに、ストーリーに盛り上げどころに乏しい印象です。また、肝心要の不治の病に関するネタにも、ちょっと踏み込みが欠ける上、後半はあっという間にすとんと落ちてしまうので、「あれれっ?」となってしまう感は否定できません。例えば、主人公が進学してからの状況とヒロインの不治の病を上手く絡ませれば、より物語の充実度が増したのではないかと思います。

とは言え、だからこそテーマがあまり抵抗なく心に入って来るというのも、また否めないところです。この手の、テーマとシナリオが密接に繋がった作品の場合は、テーマがあまりシナリオに絡み過ぎると、押し付けがましい物語になるきらいがあります。その点では、押し付けがましくなく、テーマの核を抽出するのをあえて読者に委ねているとも言えましょう。

しかし、物語が押し付けがましくなくなると、またドラマティックさとかエンターテンメント性と言った物は犠牲にせざるを得ないのはしょうがない事で、この点あと一捻りがどこかで欲しかった感じがします。またもうちょっと描写に突っ込んだところがあれば、と。あるいは、たとえテーマに直接は関わらなくても、もう1つ2つイベントでもあれば、印象が変わったかも知れません。私個人としては、ノベルゲームにはやはりエンターテインメント性を求めてしまうので、どうしてもそう感じてしまいます。

立ち絵や1枚絵は、少し古い感じの絵柄ではありますが、1枚絵の挿入のタイミングがよく、雰囲気を高めています。また、主人公の立ち絵が入るのが珍しいですね。それに合わせて、ウィンドウがフルサイズになったりテキストウィンドウになったりしているのは、芸が細かいです。プレイ時間は45分くらいですので、短編なのですが、短編にも関わらず工夫が凝らされている作品だと思います。

選択肢はありません。システムは吉里吉里です。プレイ後は、任意の箇所から読み返せる機能がついています。テーマの割りにはあっさりした作品ですが、逆に二度三度と読みたくなるような味わいのある作品です。薄味だけど芯がしっかりしている。このあっさり感が、この作品の良いところかも知れません。

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