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はるけきかなた

【はるけきかなた】 準推薦
■制作者/bush clover(ダウンロード
■容量/161MB

ある日カフェで恋人に別れを告げられた野上秀秋。夏の日射しの中、とぼとぼと通い慣れた書店へ足を運ぶと、そこで出会ったのは幼なじみの中村千夏だった。秀秋が振られた事を鋭く察知した千夏は、「デートのテストをしてあげる」と言って来たが。会話の妙が楽しめる、ちょっと大人風味の恋愛ノベル。

ここが○

ここが×

■男は恋を失って大人になる

恋愛ものの舞台としては高校が一番多いと思います。理由は色々あるでしょう。色んなイベントが盛り込めますし、誰でも感情移入しやすいです。それに比べて、登場人物が大学生という作品は、思いのほか少ないような気がします。大学生生活自体が、学生の自主性によるところが大きくなるため、高校ほどは物語が組みやすくないせいかも知れません。やる気がなかったら、毎日同じ事の繰り返しですしね(笑)。そしてこの作品は、大学を舞台とした物語としては、かなり出色の出来映えです。

物語は、主人公が付き合っていた彼女からカフェで平手打ちを食らい、別れ話を切り出されるところから始まります。カフェの中から物語が始まるというのもなかなかのインパクトで、読み手の興味をそそります。もっとも、平手打ちを食らわせておいてから「別れましょう」というのも、なかなか酷い話ですけど……(笑)。

ヒロインは2人。幼なじみの千夏と、本屋の店員である伊織。千夏は主人公の幼なじみ、同じ大学でバスケットボールに打ち込む、天真爛漫で活発な2つ年下の女性。伊織は司法試験を目指して書店で働いている年上の女性。対照的な2人です。この2人が絡むシーンはほとんどないんですが、伊織シナリオの途中で伊織が千夏に嫉妬するシーンが可愛らしくて、思わず笑ってしまいました。

そのシーンだけでなく、この作品は会話のやり取りが粋で、それだけでも楽しめます。テキストは全編を通して、会話のやり取りが主体で描写は少なめです。こういう手法の場合、会話が自然でなかったり変なギャグが多かったりすると、流れが澱んでどうしようもなくなったりするんですが、この作品はぽんぽんと進む会話のやり取りが楽しく、ストーリーの流れを一層引き立てていると思います。

そのストーリーですが、千夏シナリオはいわゆる「一線を越えられない幼なじみ」な内容。後半の主人公の言動にちょっとじれったくなるところもありましたが、おおらかでありながらいじらしい千夏というキャラクターが物語によくあっていて、ストレートな進行ながら楽しめます。伊織シナリオは、司法試験を目指す伊織とだんだん親しくなる主人公、そして彼女が司法試験を目指した理由は、という内容で、物語としては千夏より凝っています。これまた、一見クールで知的ながら焼きもち焼きな伊織というキャラ自体が、非常にストーリーを盛り上げます。シナリオ、台詞のやり取り、そしてキャラクターが相乗効果で物語を形作っており、手慣れた作りに感心しました。

また、主人公とヒロインの距離感の描写も、露骨に描写してはいないんですが非常に良いです。伊織シナリオがこの辺りは特によく出来ています。恋愛がどう成就するかではなく、その先で物語が進む伊織シナリオは、恋愛ノベルとしても高い完成度を持っています。舞台が大学という事もあり、「ちょっと大人の恋愛物語」という感じ。

難点ですが、開始方法が分かりにくいです(汗)。readme.txtを読めば書いてありますが、普通にkrkr.exeをダブルクリックしたらエラーが出て始まりません。これだけでこの作品をゴミ箱行きにしないように、ご注意ください(10/10/8追記・最新版では修正されています)。それと、エンディングが素っ気なさ過ぎなのは、ちょっと寂しかったですね。

もう1つ、全部オリジナルの音楽は良く出来ていて、特に千夏のテーマは雰囲気に合っています。が、曲数が少なく、無音のシーンや、効果音が延々続くシーンが多かったのがちょっと残念です。また、後半にもう1つ印象的な場面があればと思いました。あと一歩心を揺さぶってくれれば、「推薦」にしていたかも知れません。それでも、特に伊織シナリオは余韻を引きつつ綺麗に幕を引いてくれるので、非常に読後感は爽やかです。

ツールは吉里吉里。プレイ時間は2時間半くらいでしょうか。イベント絵はありませんが、立ち絵はなかなか綺麗です。選択肢は少ないので攻略も難しくありません。伊織シナリオの事ばかり書いてしまいましたが、正統派の「幼なじみもの」である千夏シナリオも、よく出来ていますよ。十分な読み応えと心地よい読後感の作品です。

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