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ふたつのファントム

【ふたつのファントム】 準推薦
■制作者/Fadeout Moment(ダウンロード
■容量/8.52MB

夏の暑い日、高校生の宮元は、今日も本屋のアルバイトへ向かっていた。そこに現れたのは、いつも彼につきまとってくる少女、美咲冬湖。家庭の境遇から、他人を信じられない宮元は、今日もつれなく冬湖を受け流し、暑い夏休みはまだまだ続く。あまりに衝撃的なオチに驚く長編ノベル。

ここが○

ここが×

■幸せはここに輝いて

ノベルゲームをたくさんプレイすると、シナリオの作り方とか、あるいは後半のどんでん返しですらも、ある程度パターン化されてくると思います。それもまたフリーのノベルゲームをプレイする上での面白さですが、この作品のラストは、あまりにも衝撃的すぎてぶったまげました。見た目は普通の学園ノベルなんですが、色んな意味で異色の作品です。

まず、主人公を始めとした登場人物はほとんど高校生なんですが、ゲーム中の期間はずっと夏休みで、学校内はまったく舞台になりません。代わりに、主人公のバイト先である書店が主な舞台となります。また、主人公が抱える問題と言いますか、境遇がかなり重くのしかかってきて、普通の学園恋愛ものとは一線を画した雰囲気を出しています。いわゆるカレンダー消化型で、期間は8月9日から8月31日までですから、かなりの長編です。

この主人公宮元は、その境遇から他人を信じるとか他人のために尽くすという考えには、非常に疑問を持っているという設定です。通常、そういうネガティブな設定を作ると、非常に読み手にストレスを与える物語になりがちです。ところがこの作品は、そういう点が全くありませんでした。それは、宮元がヒロイン冬湖に影響されて、少しずつ変わって行くその描写の細やかさ、的確さによるものでしょう。また、宮元自身は不思議とネガティブな発言に終始したりはしません。訴える力が強いのに、実に読み手に優しいストーリー作り、キャラクターメイキングは、大した手腕です。

それを大いに助けているのが、個性的なキャラクター達の楽しいやり取りです。MIYAMOTOパンチネタとかは、お笑いでいう「天丼」みたいにあまりに繰り返されるため、人によっては冗長に感じる事があるかも知れませんが、キャラクターによる引っぱりと、展開の「緊張と弛緩のバランス」はとても良いと思います。かなり長い物語なんですが、前半でだれずに後半まで引っ張ってくれます。冬湖の発明ネタなど、よくよく考えれば突飛すぎる設定なんですが、読み手に嫌みを感じさせないのは、作者さんの描写力のなせる技でしょう。

この作品のシステムは「ファントムスクリプトβ」と言います。耳になじみがないですが、それもそのはず、この作品のためのオリジナルシステムのようです。ただ、履歴が見にくかったり、既読スキップがなかったり、あるいは曲が変わる度にウェイトがかかったり、使いやすいとは言い難いのがちょっと難点。この作品はある程度複数回のプレイが前提ですから、少し辛いものがありました。ctrlで選択肢までのスキップが出来ますので、上手く活用しましょう。

そして、物語は書店の先輩である春香や同級生の夏音、友人の藤原などのエピソードを上手く絡めて後半に進んでいきます。エピソードの絡め方が上手いので、後半も退屈しません。とは言え、エピソードがシナリオ全体で生きているかと言うと、そこはちょっと弱さを感じざるを得ません。藤原君が、突然のエピソードで、突然消えてしまったりしますし(彼と宮元が出会うきっかけのエピソードなんかは、かなり好きですが)。ま、主人公宮元が変わって行く大きなきっかけにはなってますから、あれはあれでありなのかも知れません。

さて、ノベルゲーム史上類を見ないほどの衝撃的なラストですが、これは賛否両論でしょう。ラストで、それまでのエピソード等が綺麗にまとまっているとは、ちょっと言い難いですし。私としても「せめてもうちょっと明るい終わり方も作って良かったのでは」と思いましたが、しかし宮元と冬湖の気持ちが近づいて行く描写などが非常に上手いため、確かに悲しい終わり方ではありますが、その中に希望も感じさせてくれて、物語としての完成度はとても高いと思います。

前衛的と言いますか、実験的な試みの要素が大きな作品で、終わり方は賛否両論だと思いますが、巧みなキャラクターの扱いによるエンターテンメント要素も高く、重苦しさをあまり感じさせません。普通に読んでも楽しめる作品だと思います。後半の展開と終わり方が私好みだったとしたら、「推薦」にしたいと思ったほどでした。プレイ時間は全部読んで7~8時間。じっくり読んでみてください。

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