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ウィンドチャイムに連れられて

【ウィンドチャイムに連れられて】 準推薦
■制作者/Lunaria Project(ダウンロード
■容量/61.0MB

高校野球部の4番でキャプテンだが、最近幼なじみとぎくしゃくしている少年。交通事故から目を覚ましたら、幼なじみの事を一切覚えていなかった少年。そして、世界の終わりに幼なじみと旅立った少年。3本の性格の異なる短編が読める、幼なじみオムニバス短編ノベル。

ここが○

ここが×

■あの空まで、さよなら

ここのところ、一時期に比べるとちょっと作品紹介のペースが落ちていますが、最近は短編作品に良作が多いように思っています。この作品も、かなり良質な短編作品集です。短編作品を3本集めたオムニバス形式で、どの作品も主人公と幼なじみの関係がテーマになっています。「水溜まりの向こう側」「星空に馳せた想い」の作者さんによる作品ですが、一作ごとに完成度の向上が見られ、今作は堂々の準推薦です。

テーマは「幼なじみとの関係」ですが、収められている3作は、切り口が全く違います。3作とも20分程度で読める作品ですが、その中にちゃんとストーリーの流れや、盛り上がるシーンがあって、20分という尺以上の満足感を感じさせてくれる物語です。ちなみに「ウィンドチャイム」というのは、長さの違う金属製の棒がたくさんついてて、「しゃららーん」という音が鳴る楽器です。

せっかくですから、3本の物語についてそれぞれ少しずつ述べましょう。まずタイトルにもなっている「ウィンドチャイムに連れられて」。甲子園を目指す高校球児が主人公です。スタンダードなスポーツラブコメと言いましょうか。サブキャラが適度に犠打で確実にランナーを進め、主人公が最後クリーンヒットで締める、という感じです。展開としては捻ったところのないストレートなものですが、タイトルにもなっている「ウィンドチャイム」のシーンは、バランスとテンポのなせる技か、綺麗にまとまっていてシナリオを盛り上げていました。ハッピーエンドで読後感も良好です。

2本目は「海の見える窓辺から」。交通事故から目覚めた主人公が、幼なじみの事だけをすっぱり忘れているという、病院ものです。後半の展開は、見方によっては荒っぽいとも言えますが、一番この作者さんらしいストーリーテリングを見せてくれる作品です。ハッピーエンドとは言えませんが、最後の主人公の一言を放つタイミングが、絶妙です。

3本目は「天色の空」。いわゆる「終末もの」。終末ものは、それだけで一ジャンルにしても良いくらいの特色ある物語ですが、意外な事に作品は少なく、「終末に寄せて」くらいしか、私は思い出せません。そしてこの作品は、3本の中で私は一番印象に残りました。夢を失い、退廃的な生活を送っていた主人公と、彼に絡む幼なじみが、空を見つけに旅立つという物語です。

この作品も、展開それ自体はよくある話です。しかし、その展開に対する「意味付け」が非常に上手いのが特徴です。何となくの思いつきで展開させたり、何となくキャラにやり取りさせただけなんて箇所が見当たらず、展開やキャラクターの発言に、しっかり意味があり、それがお互いに密接に絡んでいるのです。

ですから、キャラクターの行動や、主人公とヒロインとのやり取りも、物語中での説得力が高いものになっています。終末ものですので、これも純粋なハッピーエンドとは言い難いですが、読後感自体は決して悪くありません。特にこの作品は、台詞のやり取りが軽妙かつ印象的で、短い作品にも関わらず大変満足感が高かったです。冒頭ちょっと無音のシーンが多いのが気になりましたが、これ単体でも十分お勧めできる内容でした。

演出に少し淡白なところがある感じはしますが、この作者さんの持ち味は、現実にファンタジー要素を上手に織り込むその世界観構築、そしてストレートながら、その展開にしっかり作中で意味付けをする事、更に台詞のやり取りの上手さだと思います。これら全部の相乗効果で、とても楽しめるシナリオとなっています。ハッピーエンドは1つしかないのですが、終わり方自体は綺麗ですし、20分でああいう話はなかなか作れるものではありません。

システムはNScripterで、選択肢はありません。プレイ時間は全部合わせて1時間です。この作者さんは、成長株です。要注目ですよ。

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