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魂渫

【魂渫】 ■制作者/さとる(ダウンロード
■容量/19.5MB

南譲は、両親から虐待を受けており、学校にも行かせてもらえない生活をしていた。ある日とうとう道端で行き倒れてしまい、死を覚悟するが、そんな譲を助けてくれた少女、吹希。どこか謎がありそうな彼女との生活が始まるが。変わった雰囲気の短編ノベル。

ここが○

ここが×

■君がくれた希望の続きを

最近は、フリーのノベルゲームでも見た目が豪華になる傾向にあり、立ち絵がない作品は少なくなってきました。しかし、立ち絵がない作品には、ないなりの良さがあります。想像力を刺激してくれるのは立ち絵がない方ですし、文章が印象に残るのも、立ち絵がないならではの利点です。反面、絵の助けを借りられませんので、文章力がないとキツいものがあるのもまた事実です。今回は、立ち絵のなさが不思議な存在感を与えてくれる短編作のご紹介です。タイトルは「たまざらい」と読みます。

この作品は、いわゆるボーイミーツガール系で、かつ「時限恋愛」ものと言えましょう。主人公の名前が「南譲」と言いますが、ぱっと見た時は「南護」に見えてしまい、「ひとかた」の主人公が出張してきたのかと思いました(そんな訳ない)。

彼が両親から虐待を受けており、行き倒れた譲をヒロインである吹希が助ける、という出だしです。そしてこの吹希の秘密を軸に物語が進行します。まず、音楽が非常に寂しいのがちょっとマイナスポイントです。無音のシーンが非常に多いですし、効果音も皆無です。耳になじみのある素材でもいいので、もう少し音楽が多かったら、印象がかなり変わったのではという気がします。

そして吹希の秘密、ずばり「魂渫」に関わる部分ですが、これに対する説明がまったくないので、この辺りからの展開はちょっと読者を置いてけぼりにしてしまっているきらいがあります。特に何か前半で伏線が張られている訳でもなく、突然その事実が明らかになるので、「いきなりそんな事言われても」という感じなんですよね。

また、後半はかなり(もの凄く?)展開も早いですし。吹希の過去とか、魂渫に関する説明とか、そういったものに対する描写がもっと欲しかったですね。短編だからしかたない面もありますが、譲と吹希の日常描写もちょっと少ないので、後半に唐突感があるのは、どうしても否めません。「起承転結」ではなく「起起転結」という感じです。

なので、吹希の秘密が明らかになった展開を受けて、もう一つ踏み込んだ物語があれば良かったように思います。そうする事で、一風変わったヒロインの設定が、より生かされたと思うんですが。もちろん、短編ならではの良さを感じさせてくれる作品ではあるんですが、もうちょっと尺があれば、この作品の持つ性格がより鮮明になったのではないでしょうか。

しかし、抑え気味の筆致が、不思議な存在感を与えてくれる作品で、読後にほのかな余韻を残してくれます。一人称ながら語りすぎない文章が、功を奏していると言えましょう。欲を言えば、恋愛面での描写がもうちょっと欲しかったですね。それだけでも完成度は飛躍的に高まったはずです。

この作品は、音楽も背景もすべて作者さんの手によるもので、立ち絵に1枚絵にムービーにと、もの凄く豪華な作品の合間に、こういう作品を読むと、何だかほっとします。階段の写真が我が家とそっくりだったので、親近感を覚えました(笑)。こういう作品をプレイできるというのも、またフリーのノベルゲームならではと思えます。

ツールはNScripter。選択肢はなく、プレイ時間は30分です。ラストで脈絡なくいきなりタイトル画面に戻されたのがびっくりでしたが、その時はもう一度クリックすれば、ちゃんとエピローグが始まります。こういう「手作り感」のある作品、個人的には好みです。

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