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ひとかた

【ひとかた】 推薦
■制作者/お竜(ダウンロード
■容量/54.2MB

正体不明の妖怪「牛鬼」が巣食うと言われる打追町。ある夏の日、高校生の南護は親戚にあたる南依絵に、牛鬼の退治を依頼されて打追町にやってくる。護には牛鬼を退治する力があると依絵は言うのだが……。読了まで10時間、大長編の現代伝奇ノベル。

ここが○

ここが×

■よし。南護、いざ、参る!

前回の「TRUE REMEMBRANCE」に続き、2回連続の「今更な感じのレビュー」。ノベル好きなら誰でも知ってる有名作「ひとかた」を、今更ながら推薦です(笑)。以前から当然その存在は私も知ってましたが、一度もプレイしようとは思いませんでした。

と言うのも……ネット上での評判を見ても「ジャンルは伝奇もの」「めちゃくちゃ長い」「主人公が下ネタや寒いギャグ連発」と、私がプレイをためらうようなものばかりだったのです。しかし最近伝奇ものの「外道狩り」を楽しんだ後ですし、私の自作ノベル「カレイドスコープ」をプレイしてくださった方からのお勧めもありましたので、プレイしてみました。埋もれている良作ではなく、「既に確固たる評価が確立している良作」ですので、ちょっと辛口目なレビューになるかも知れませんがご了承ください。

今作でまず目をひくのは、主人公の馬鹿っぽい言動です(苦笑)。しかも下ネタ連発。各所で散々言われている通り、ずばり「一昔前のエルフのエロゲー」な感じです。ただ、あの名作(らしい)「AIR」を、寒すぎる主人公の言動に怒りを覚えて途中で放り出した私ですが、今作の主人公の護は、結構共感できる熱くて良い奴なんで(突っ走り過ぎな感は否めませんが)、その言動も後半には微笑ましく感じるようになりました(笑)。それに意味不明なレトリックにふけった挙げ句、読む側を崖下に突き落としてしまうKey&Leaf系に比べたら、十分一般向けです(笑)。

さて、今作で何より驚嘆したのは、その完璧なまでの構成力。幾多の謎がどんどん収束して行く様や、時間を繰り返す事で少しずつパズルのピースが埋まって行く様は痛快の一言です。プロット構成と言う点では、これまで読んできたどの作品をも凌駕していると思います。シナリオ自体はそう凝ったものではないですし、結構容易に先を読む事もできるのですが、続きを読み進めずにはおれない完璧なプロット構成には、完全に脱帽です。

そしてセンスのある会話文も印象に残りました。個人的に一番気に入っているのは、上の画像でも使っているシーン。護が自嘲気味に「……このぐらいのささやかな幸せは、俺にだって、許されるだろ?」と、心の中でつぶやくところです。あの前後のシーンは非常に好きですね。文章力と言うより構成センスと言うか。この作者さんが映像作品を手がけたら、凄いものができるんじゃないかなあと思いました。

反面、あの長さはもうちょっと何とかならなかったんでしょうか……。時間が繰り返すのはしょうがないとしても、もっと他にやりようがあったような気もするんですが。文章自体にも、どうもあちこちに冗長な点が散見されます。正直、下ネタ連発など決して「繰り返し読んで心地よい」文章ではないですし(苦笑)。4周目のラストはさすがに「まだ繰り返すのかよ! このヘタレ主人公が、いい加減にしろ!」と思いましたし(笑)、他にも全体に描写はもっとシェイプアップできたんじゃないかな、と言う気がしました。

あと、あの後書きには萎えた人多数だったんじゃないか、と(苦笑)。作者さん自ら、登場キャラを「駒」とか言っちゃってますし。音楽に関する裏話とかは面白かったんですが。まあ後書きなので作者さんが何を書かれようとも自由と言えばそれまでですが、エンディング後の余韻に、かなり水を差された気分になってしまったのが残念な点です。

音楽はMP3ですが、和風ではなく現代風。非常に良い曲が揃っており、音楽は大変レベルが高いです。個人的にはエンディングテーマである「螺旋」(何と歌入り!)の「オルゴール単音版」がかなり「ツボ」でした。あの曲が流れただけで目頭が熱く(笑)。その他人物画はなく、グラフィックスは地味ですが、雰囲気のある背景ばかりで良いと思いました。システム周りは…既読スキップもあって別段不自由はなかったんですが、タイトル画面からのロードくらいはできるようになってて欲しかったな、などと。

ともあれ、さすがに多方面で評価されているのも納得の一品です。私はどちらかと言えば「隠れた佳作」が好きですが、ネームバリューがあるものは、さすがにそれだけのものがありますね。フリーノベルで泣いた事など一度もなかった私が、この作品では3度ほど目頭が熱くなり、1度は声を出して泣きかけました。文章は完全に昔のエロゲー風ですが、それだけで放り投げるのはもったいない良作。「フリーノベルの金字塔」として、多くの方にぜひこの作品の魅力を味わっていただきたいと思います。

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