Welcome to NaGISA net

▲PREV ▼NEXT

魔法使いカラオケにゆく

【魔法使いカラオケにゆく】 ■制作者/枕三つ(ダウンロード
■容量/60.2MB

ある日近所の小さな山をUFO探索のために歩いていた鈴沢修一郎は、落とし穴にはまってしまった。落とし穴を堀ったのは、女子高生風の少女。母親から魔法で飛ばされて来た少女は、魔女だと名乗るが。気軽に読める現代魔法短編ノベル。

ここが○

ここが×

■魔法使い歌います!

私は、伝奇などの架空っぽい物語よりは、どちらかと言えば現代ドラマを好みます。ですが、ファンタジー風の設定を上手く現代に溶け込ませると、思った以上の効果を生み出す作品もたくさんあります。この作品は、まさにそういう「ファンタジー風の設定を、現代にふりかけた」物語です。最近では「まほしあ」がありましたね。

この作品、ヒロインが魔法使いですが、その辺の説明は全くありません。しかし違和感を感じさせずにプレイヤーに受け入れられるのは、主人公自身が、突飛な展開におたおたせずに、すっとヒロインを受け入れているところが大きいと思います。物語全体のテーマを考えると、これは大きなメリットですね。何気ないテーマを描くなら、登場人物も過剰に騒ぎ立てない方がいいのです。

そのテーマですが、要は歌手になるという夢を持つヒロインが、それを反対された母親と衝突して、夢を貫くか、家の事情を受け入れるかと、そういう感じ。最終的にヒロインは夢を貫き通しますが、そこらの描写と言うか、過程がどうもなおざりなのがちょっと気にかかるところです。

更に、主人公がヒロインの夢を後押しするんですが、ちょっと主人公の言動に芯が感じられない感じです。主人公自身、夢がある訳でなく、何となく大学にきているようなキャラで、確固たる信念を感じないのです。ですから、「その場の流れや思い込みで、何となくヒロインを後押し」している感が拭えません。

物語でも描かれていますが、こういう家の事情と夢をはかりにかける場合、夢に向かって進むという事は、ずっと継承され続けた伝統を捨てる事になるのです。それは非常に重いもので、「伝統のために夢を捨てるのはどうか」などと、軽く扱うべきものではないと、私は思います。少なくとも、伝統と夢は、同じレベルで取り扱われるべきでしょう。自分の夢は自分だけのものですが、伝統はそれを受け継いで来た人達の結晶ですからね。それがこの作品では、夢にちと傾きすぎてて説得力を欠いています(その原因が主人公の言動にあるので、なおの事)。

なので、その辺のフォローが欲しい感じです。例えば、ファンタジーを現代に溶け込ませた名作として、「魔女の宅急便」という映画があります。あれは、魔力を失った主人公が、紆余曲折しつつ、魔女としての自分のアイデンティティを取り戻して、同時に都会の生活にも居場所を見つける、という作品でした。この作品はその「紆余曲折しつつ魔女としての自分のアイデンティティを取り戻す」ところが抜けているのです。それだと、別に魔法使いである必然性がないんですよね。

せめて、主人公がヒロインとお母さんのやり取りを見て、流されて生きるだけだった自分を見直す、なんて描写でもあれば、印象はかなり変わったと思うんですが……。またこの作品では、ヒロインは母親の心情をきちんと理解しているとは言い難いですよね。その状態で最後の「夢に向かって前進しました!」みたいな描写が来るので、どうにもおさまりが悪いのです。

ですが、全体のほのぼのとした雰囲気はとても良く、軽く読める現代魔法ドラマです。等身大の物語と設定、更には短編ながら起伏に富んだ展開で、楽しく読めると思います。だからこそ、上に書いたような事が非常に気になった、というのも事実ではありますけど。

システムは吉里吉里。最近流行り?のワイド画面です(しかしワイドの意味はほとんどないような)。プレイ時間は30分、選択肢はありません。深読みせずに、気軽に楽しみたい作品です。

▲PREV ▼NEXT



(c) NaGISA net All rights reserved.
inserted by FC2 system