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ハローワールド

【ハローワールド】 準推薦
■制作者/EaSt(ダウンロード
■容量/67.8MB

主人公長瀬は、形式的な友達付き合いが疎ましく、1人も友人を作っていなかった。そんなある日、クラスのマドンナ九宝寺みくにと、ひょんな事から言葉を交わす。更に、主人公は「電波」を受信して会話できるようになった。電波での会話を通じて長瀬はどう変わるのか。随所に作者さんのセンスが光る、学園短編ノベル。

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ここが×

■新たな世界へこんにちは

私は、ノベルゲームを見た目で選ぶ事はしません。それどころか、絵がついていない作品を狙ってプレイする事も、結構あります。そしてそういう時は、意外な(と言っては失礼ですが)佳作に当たったりするものです。今作はまさにそう。かなりの短編で、絵がない地味な作品ですが、非常にセンスの良い作品でした。「ハローワールド」のご紹介。

主人公は、形式的な友達付き合いを嫌う高校生です。出だしだけ見ると、どことなく「冥王星と透明少女」っぽいところも感じるんですが、あそこまで露骨ではありません。主人公の主張が過剰でなく、また行動も過剰でないので、読み手が押し付けがましく感じる事がありません。このバランス感覚は見事なものだと思います。

そして、途中で主人公は何故か電波(?)を受信できるようになり、脳内で会話するという離れ業が展開されます。ちょっと見ただけですと、それこそ電波全開な展開に見えるんですが、そこへの持って行き方ですとか、描写の節度がとても良いため、これまた押し付けがましくありません。

更に、この物語は短い割りに、しっかりとしたテーマ性が盛り込まれています。以前も何度か書きましたが、テーマ性を持った物語というのは、難しいものです。テーマ性を前面に出しすぎると、押し付けがましくなりますし、エンターテインメント性が欠如しがちです。エンターテインメント性を前面に出しすぎると、今度は訴える力の弱い物語になります。しかしこの作品は、そこが非常に「ちょうど良い」のです。テーマをしっかり描き、かつエンターテインメント性も決してなおざりになってません(別に、げらげら笑えるとか、キャラ萌えするとか、そういう意味ではありませんよ。起承転結のある、「楽しめる物語」になっているという事です)。

そこらも含めて、全体から非常に作者さんのセンスの良さを感じます。訴えたいテーマのためのキャラクター描写もいいですし、テーマに繋がるイベント配置も非常に適切で、短編シナリオとしても非常に整っています。こういうのはなかなか狙ってできる事ではありません。

ただ、これだけ短い作品ですからしょうがないと言えばしょうがないんですが、ちょっと後半の展開は急な気がします。特に、ヒロインであるみくにが、主人公にある用事を頼む辺りですね。あの辺りだけでも、もう少し時間をとって展開させれば、もっと良かったのではないでしょうか。あの辺りの展開が急なので、どうしても主人公に非常に都合の良い物語に感じてしまうんですね。そこだけが、ちょっと惜しまれます。

音楽ですが、オリジナルのようで、非常に独特の響きの曲ばかりですが、ずっと聴いていると、不思議と癖になってきます(笑)。このBGMも、作品世界にとても合っていたんじゃないかと思いました。

作者さんの作品紹介を読むと、「1000人に面白いと言ってもらえるより、1人の心を動かしたい」とありました。まさにそういう性格の作品だと思います。私は十分心を動かされましたし、とにかく全体に押し付けがましくないので、多くの人の心に響く物語なのではないかと思います。ラストも抑制が効いていて、好印象でした。その後を色々想像してみたくなりますね。

システムはNScripterで、プレイ時間は15分。選択肢はありません。これだけ短いのに、シナリオとしての完成度が見事で驚かされます。テーマ性が強いと言っても、気軽に読んでも楽しめますので、是非どうぞ。

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