Ghost Write
準推薦
■制作者／かめソフト（ダウンロード）
■容量／33.7MB
川平正史は、大学を卒業したものの就職できず、ゴーストライターとして身を立てている。友人の紹介でやって来た古いアパートで一息つく暇もなく、早速依頼人がやって来た。中学生の女の子が「作文の宿題、代わりにやってください」と言ってきたのだが。一風変わった舞台の正統派恋愛ノベル。
ここが○
- 丁寧な文章と、ゴーストライター業のリアリティ。
- 下町の雰囲気を感じさせる描写とキャラクター。
- 長さを感じさせないテンポの良さ。
ここが×
- システム的にちょっと弱点あり。
- 後半は恋愛面にシフトするのに、恋愛ものとしては少々淡白。
- ラストにもう一捻りが欲しい。
■二人の恋はノンフィクション
フリーのノベルゲームで恋愛ものと言えば、舞台は学園と相場が決まっています。誰でも経験しているから書きやすいというのが一番の理由でしょう。その意味でこの作品はかなり変わっています。主人公が社会人の恋愛ものというだけでも数が少ないのですが、この作品の主人公は「ゴーストライター」なのです。ゴーストライターがどんな職業か分からない方は、読んでみれば詳しく説明があるので分かります。
今作は「とあるノベルのレビューサイト」の作者さんによる新作です。前作はフリーノベルゲームのレビューという、非常に変わったテーマを取り上げましたが、この作品は主人公の職業こそ変わっているものの、内容は至って普通の恋愛ものです。ヒロインが中学３年生なので、そこで「え？」となる方もいるかも知れませんが、主人公とヒロインの年齢差に関しては、それほど違和感を感じません。
そして、主人公のゴーストライターとしての仕事が、非常に強いアクセントとなっています。他の恋愛作品にはない、この作品ならではの個性を生み出しています。また、舞台は東京の下町と思しい街なんですが、銭湯や商店街での様子に下町情緒が感じられて、これもこの作品ならではの味になっています。
さて、物語の枠を作っているのが主人公のゴーストライトという仕事であるんですが、反面恋愛面については少々淡白です。相手が中学生ですからそこを濃厚にするのもどうかと思うのですが（笑）、後半でもありがちな展開をして、ありがちな落ち着き方をしてしまっているので、個性的な作品世界に比べると、少々捻りが欲しかった気がします。
恐らく、個性的な枠を味付けにして、正統派の物語を丁寧に描くというのが、作者さんの主旨なのでしょう。だからこそ、恋愛面は少しあっさり目なのかも知れません。それならば、オチにももう少し物書きとしての方面を何か絡ませてみれば、かなり全体の印象が変わった気がします。現状でも、ほんの少しそれっぽいオチはつきますが、作中の展開からすれば、正史が「自分の名前で物語を書く」事で何か前進する、その形まで見てみたかったところです。そうすれば「舞台を味付けにしつつ、淡い純愛を描く」というテーマが更に際立ったのではないかと思います。
立ち絵はないのですが、個性的なキャラクターが多数登場するので、終始賑やかな感じです。登場キャラは結構多い割りに、変に混乱したりごちゃついたりしないのは、作者さんの筆力あってのものでしょう。また、作中の時間で１年が経過する物語ですが、その割にあっという間に読め、長さを感じさせないテンポの良さも好印象です。
ただ、NScripter作品にはありがちなのですが、この作品も文章表示速度が変更できません。それだけなら「ちょっと気になる」で済むんですが、今作は前半、あまり舞台が動かず、背景のフェードイン・アウトで時間経過を示す事が多いのです。そして、テキスト表示速度が速くできないので、どうしてもプレイヤーはクリックを連打します。そうするとフェードイン・アウトもカットされてしまうので、前半が少々単調に感じてしまうのです。ちょっと惜しまれる点です。
ところで、中盤辺りで主人公が昔の彼女と別れるシーンがあります。これは名シーンです。評価に迷ったのですが、最終的にはこのシーンで準推薦を決めたと言っても過言ではありません。欲を言えば、昔の彼女との過去などが、回想で描写されれば、なお感銘が高まったような気がします。昔の彼女に関する言及があまりないので、少し唐突感があるのも事実ですし。
ツールはNScripterで選択肢なし。プレイ時間は２時間前後です。ラストに一捻りが欲しい感はありますが、下町の雰囲気や暖かい登場人物が織りなす空気感で、安心して味わえる正統派の恋愛物語です。ちなみに、エンディングで私の名前も出て来ますが、大した事は手伝っておりませんので、念のため（笑）。