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蛍ノ唄

蛍ノ唄 ■制作者/T.Lovers(ダウンロード
■容量/19.7MB

突然亡くなった祖父の葬儀のため、10年ぶりに故郷の西宮村へやって来た高校生の碓氷直樹。村で彼を出迎えてくれたのは、幼なじみの真奈美だった。なんだかのほほんとした真奈美の母、真由が経営する喫茶店を拠点に、直樹の夏の物語が始まる。凄くどこかで見たような、懐かしい香りの恋愛ノベル。

ここが○

ここが×

■蛍飛び交い夏は来ぬ

最近、どうも新作が私の心にヒットしません。こういう時は少々古い作品を探しに行くに限ります。この作品は2003年10月の公開。つまりNaGISA netがスタートする少し前という事になります。プレイしてみると、「なるほどあの頃のノベルゲームってこんなだったな」と思いをはせつつ、しかし2003年という年代を考えるとこの作品はかなり先進的でもあります。

というのも、BGMはきちんとMP3でなかなかの品質ですし(容量の関係でモノラルですが)、この容量でオープニングとエンディングにはムービーもついているのは立派です。これは、元々同人作品としてCDで配布していたからでしょうけど、同時期の同じような経緯の作品(例えば「夢の少女」。もっともこちらはフルボイスでしたが)と比べると、この作品が時代を先取りしていた事がよく感じられます。

さて、この作品は典型的な「夏に帰省、思い出再発見ノベル」です。プレイを開始するとすぐにオープニングムービーが流れますが、これがもうどこからどう見てもKanonです(久々に強調タグを使ってしまった)。また、物語の出だしも、季節が冬から夏になった事を除けばやはりどう見てもKanon。ヒロイン達の制服は、何となくAirっぽいですし、主人公の一人称実況で進行するテキストも、Kanon風(だから文章のテンポは正直よいとは言えない)。ヒロインのお母さんがちょっとぼけぼけなタイプであるところは、まんまKanonの秋子。

とまあ、しょっぱなから「どう見てもKanon」なのでびっくりしてしまうのですが(笑)、少しのっそり気味のテンポだけ我慢すると、意外にもキャラクターの絡みはよく、キャラの個性で読ませてくれる展開です。登場キャラの数も多いですが、ぐたぐた感は感じません。

しかしシナリオとして見ると、それなりの長編なのに、かなり作りが中途半端です。いかにも曰くありげな登場をする謎の少女とか、直樹と真奈美が持っている勾玉の秘密とか、2人の過去の約束とか(これはラストで少しだけ仄めかされますが)、白いフクロウとか、物語中で出て来た謎のほとんどが、全く明らかにならず、それでいて直樹と真奈美の2人だけは綺麗なハッピーエンドになるという、「ちょっと待て!」とツッコミを入れたくなる展開なのです(笑)。そのせいか、キャラの絡み自体はいいんですが、どうにも立ち位置が意味不明なキャラクターも多く、全体を通して消化不良な感は否めません。

作られたのがかなり前の事ですし、作者さんのwebページももう消滅していますから、どのような経緯でこの作品が作られたのかは分かりませんが、もしかしたら当初は選択肢を入れて、他のヒロインのシナリオを用意して、そこで謎は解決するはずだったのかも知れません(そう思わせてくれるほど、これでもかと謎が出て来るのです)。

とまあ、そこを見ると少々残念な感じではあるのですが、これはこれで独特の魅力がある作品です。背景の色調とか加工の具合がよく、また立ち絵の色味の調整具合も背景とのマッチングを考えられているため、絵だけでも「夏の田舎の雰囲気」を感じさせてくれるのです。絵自体はあまり上手いとは言えませんが、1枚絵の構図は気がきいたものが多く、演出効果をあげています(とは言え、構図もKanon辺りの影響が大きい気がしなくもない(笑))。

システムはNScripter。選択肢はなしで、プレイ時間は3時間少々。確かにシナリオは中途半端ですが、恋愛ものとして見ればそれなりにまとまっており、これなら変に謎を入れずに、真奈美の演劇にでも的を絞って、普通の恋愛ノベルにした方が良いのでは、と感じさせるところもあります。

「よくできた物語か」ときかれれば、そうだとは答えにくいのですが、シナリオではなく全体の雰囲気が印象に残る不思議な作品。「2003年頃のノベルゲームって、どんなだったんだろう」という新規のノベルゲームファンの方、よろしければ読んでみてください。

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