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てぶくろ

てぶくろ 準推薦
■制作者/NEVD(ダウンロード
■容量/66.1MB

ある日10本指の謎の手袋を拾って、悩む男。莫大な借金を抱え、一攫千金を狙って答えがすべて「てぶくろ」のクイズ番組に出演する男。東京を離れて京都の高校に通いながら、彼女と遠距離恋愛中の高校生。「てぶくろ」をテーマにした、3本の短編ノベル詰め合わせセット。

ここが○

ここが×

■謎と野望と想いのてぶくろ

この作品は、短編オムニバス形式の作品です。共通のテーマを持った3本の作品を1つにまとめたという意味では、「ウィンドチャイムに連れられて」に近い雰囲気も感じさせますが、あちらが1人の作者さんによる作品だったのに対し、この作品はシナリオはもちろん、多数のメンバーが集まって作られたもので、3本のシナリオは大変バラエティ豊かです。こういう作品をプレイすると、短編オムニバスの醍醐味が感じられます。

ちなみにこの作品は、おなじみ(?)のVIP発作品です。作者名の「NEVD」というのは、「Never End VIP Drop」の略だそうです。VIP発の作品って、良くも悪くも2ちゃんねるっぽさが前面に出ている作品も少なくないんですが(「今年のクリスマスは中止しないお知らせ」とか)、この作品はあまりそういう雰囲気を感じさせないので、2ちゃんねるっぽいのはどうも苦手という方も、安心です。

てぶくろ物語は3本あります。1本目は「10本の指」。落とし物のポーチの中に、変な10本指の手袋を見つけた主人公が、持ち主の女性に届けに行くものの、10本指の手袋の使い道で夜も眠れないほど悩み、友人に相談する、というもの。10本指の手袋という、誰が考えても異常なアイテムをネタに、短い時間で上手くまとめた上、後半の緊張感がある展開も一見の価値があります。

とは言え、後半の展開はある意味かなり唐突で、ちょっと説明不足を感じるところがなくもありません。実はバッドエンドの方が話としてもオチとしても、上手くまとまっているんじゃないかと思ったのは、ここだけの話です(?)。それでも、3人の登場人物がバランス良く絡んでいる、よくできた短編です。

2本目は「全問正解」。借金を抱えて、莫大な賞金を賭けてクイズ番組に挑戦する男が主人公。まるでマンガの「カイジ」みたいですが、そのクイズ番組は解答が全部「てぶくろ」と決まっているという設定。これまた、誰が見てもヘンテコなシチュエーションで上手に読み手の気をひき、その勢いで一気に読ませるパワーがある作品です。

ただ、バッドエンドが何だか投げやりで、終わり方もあまり綺麗とは言えませんが……。まあ、あれでも一応主人公の生活は、番組に出る前よりはマシになったのだと信じましょう。解答が全部「てぶくろ」のみというのを逆手にとって、中盤以降はなかなか面白い見せ方をしてくれます。閉鎖空間のみで展開する短編として、これまたよくできていると思います。

3本目は「遠距離恋愛」。この作品だけ、他の2本と比べると状況その他がまともです。東京から京都の高校に進学し、恋人と遠距離恋愛中の高校生が主人公。若干説明が足りないところが見受けられたり、短編にしては前半の友人キャラクターの扱いが中途半端だったり(あれなら、友人の中でも中心的な存在である、祇園寺1人で良かったような)、気になるところもあるんですが、終わり方はこの作品が一番綺麗にまとまっています。

祇園寺が紫乃の連絡先を知っているあたりの描写は、あまりにさらっと流されていて、「ん?」と思ったりしました。そこが実は伏線として活用もされているので、この作品は、キャラクターとしても展開の面でも、短編というよりは、中編以上の尺で作った方が持ち味が生きたような気もしますし、この作品だけてぶくろの存在意義がちょっと弱い気もしますが、短編恋愛作品としては水準以上の出来映えの作品である事に間違いはないと思います。

と、非常に個性豊かな3本の短編を取り揃えており、短編ながら満足度は高い一作だと思います。心温まる作品が好きな方も、ちょっとダークな話が好きな方も楽しめるのではないでしょうか。こういう短編オムニバスって、自分の守備範囲ではない作風にも触れられるのが面白いところですよね。ツールは吉里吉里で、選択肢は少なく難易度は低め。プレイ時間は全部読んでも40分弱でしょう。お気軽にどうぞ。

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