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津軽雪月花

津軽雪月花 準推薦
■制作者/Y-F(ダウンロード
■容量/114MB

主人公天津絆は、父の転勤により家族で関東から青森県弘前市へと引っ越して来た。慣れない土地での生活に四苦八苦している絆は、ある日家族で花見にやって来ていた弘前城で、不思議な少女と出会う。津軽の四季折々の風景と共にお送りする、ご当地感動系恋愛ノベル。

ここが○

ここが×

■泣けとばかりに風の音

私は「ご当地ノベル」が好きです。古くは「ハーバーランドでつかまえて」から、「ほたこい」や、あるいは外国を舞台にした作品だと「黄昏の白い靴」も、実在の街を舞台にした作品ならではの魅力がありました。この作品の舞台は、青森県弘前市。私は本州の西の端っこ、山口県下関市ですから、青森は本州の真反対側の未知の街。それだけでも興味をそそられました。

出だしは、主人公一家が弘前へ引っ越してくるところから始まります。この手の恋愛ノベルですと、主人公の家族がまるで登場せず、登場しない理由付けもかなり苦しい作品も少なくないのですが、この作品は両親に妹、それに祖母まで登場し、どのキャラクターも味があって魅力的です。ところどころ入る津軽弁もいい味出してますし、妹の雪奈が可愛いですね。両親やおばあちゃんにも名前つけてあげたら、と思ったのは内緒ですが(笑)。なお主人公の名前は、天津絆(あまつ・はん)。思わず「天津飯かよ!」とツッコミを入れたくなったのは私だけでしょうか(笑)。

津軽雪月花普通この手の作品は、「カレンダー消化型」で作られる事がほとんどなのですが、この作品は作中の時間で3年くらいが流れます。なので展開テンポも良いですし、最初の1年はヒロインの春香とほとんど会わないというのも、何だか新鮮です。高校に入った2人は無事再会するのですが、そこら辺も含めてストーリーだけでなく、主人公の環境も移り変わっていくので(合唱部とか)、飽きさせません。

さて、物語は後半から急激に動いて行くのですが、そこがちょっと唐突に感じなくもありません。一応前半にそれらしい描写があるにはあるのですが、人によっては気付かない可能性もあるレベルです。後半の展開は、それ自体の意外性で驚かせるような性質のものではありませんから、もうちょっと前半から分かり易く伏線を張ってもよかったのではないかと思います。

もう1つ。中編ノベルとしては盛り上がりどころもあり、よくまとまったシナリオなのですが、要素を少し盛り込み過ぎているような気もします。例えば合唱部の活動とか、例えば春香との恋愛模様とか、あるいは津軽という地域に馴染んで行くまでの過程とか、またはラストに繋がる「鬼」云々の謎とか、どれかに絞り込んで掘り下げた方が良かったんじゃないかなと感じました。

弘前の描写は、ねぷたとか雪かきとか、雪国ならではのものがあれこれあって新鮮ですが、前述の「ハーバーランド」とか「ほたこい」と比べると、弘前である必然性が少し薄いように思います。ヒロインの春香が、津軽人じゃないからかも知れませんね。津軽色の濃いサブキャラクターを1人入れて、もっと津軽色を前面に押し出しても良かったのでは。でも、ねぷたのかけ声とか、アップルヒルとか、地元ネタも多数あって楽しめます。

シナリオは2本で、ラスト近くの選択肢で雪奈エンドと春香エンドに分岐します。上に書いたように、後半が少し急ぎ気味に感じるところがないではありませんが、前半はイベントがあれこれあって、「移り変わる季節感」というものを十分感じさせてくれますから、作りとしてはこれもありかも知れません。2つのエンディングはどちらも純粋なハッピーエンドとは言えないのですが、余韻があって、じんわりくる読後感を味わわせてくれます。私のお勧めは雪奈エンドです。ラストシーンの展開が綺麗で、後半が少し唐突な事などどうでも良くなってきます(笑)。

ツールは初登場の「Wolf RPGエディター」。名前の通りRPGを作るためのツールで、あの「シルフェイド」シリーズの作者さんが作られたツールみたいですね。ちょっと起動が遅いのが気になりますが、スキップや読み返しなど、ノベルゲームとしての機能も必要にして十分で、プレイに不都合はありません。

プレイ時間は2時間くらい。選択肢はラスト近くに1つだけで、それによって分岐するだけなので簡単です。こういう良い意味で「いかにもフリーゲームらしい」作品、私は好きです。手軽に遊べる感動系をお求めの方に、お勧めします。

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