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茜街奇譚

【茜街奇譚】 準推薦
■制作者/NO-HOPE(ダウンロード
■容量/21.1MB

東京の片隅、茜街で暮らす加倉江元子は、妹の智子と2人暮らしをしていた。ところがある日、智子が忽然と姿を消してしまう。その頃ニュースでしきりに報道される連続通り魔事件。東京の架空の街を舞台にした、伝奇ノベル。

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■私と貴方と茜街

文章力については、今まで紹介したどの作品をも凌駕していると思われる作品をご紹介。それもそのはず。作者さんのページ見たら「仕事 文筆業/webデザイナー」だって。プロの物書きさんです。そりゃ文章うまいわな(笑)。この作品は伝奇ものなんですが、描写がゲーム的ではなく小説的と言うか、とにかくいわゆるギャルゲー等にありがちな電波飛ばしまくり文とはまさに対極。

まずは「文章が三人称」。一人称で書かれた挙げ句、最低な性格の主人公の面白くもないギャグに付き合わされるギャルゲー(ま、いわゆる葉鍵系ね)等と比べると、非常に安心感がある文章です。読んでいて心地が良いです。やはり「ノベル」なんだから、文章は一番の基礎なんだなあと改めて思いました。そして、登場人物の描き方がまた上手く、どのキャラも魅力的です。もちろん、ギャルゲーにありがちな意味不明な特徴を持ったキャラなどいません。

さて、この作品は「伝奇もの」です。架空の街を舞台に「人外の物」「術者」と言った単語が出てくる、典型的なタイプです。選択肢はありますがシナリオは1本道。恐らくはわざとやってるんでしょうけど、文章はあくまで淡々と上品に書かれ、必要以上にあおり立てたり、登場人物が心情を語ったりしません。そのため地味です。「盛り上がりに欠ける」と思う人もいるかも知れません。ですが、シナリオはしっかりと作られており、独特の雰囲気と物語もよくマッチしています。

が、個人的に少々気になった点もあります。伝奇ものですから、後半は何やら怪しげな物の怪も出てくるんですが、前半の淡々とした雰囲気とそぐわないんですよね。その上、作品中で取り立てて世界観の説明がある訳でなく、唐突にそう言う奴らが出てきて、更に登場人物は普通にそいつらの解説してるし。読んでてちょっと置いてけぼりを食らってしまいました。正直、「いや、いきなりそんな怪物の話にされてもなあ」と感じたのが率直な感想です。

例えるなら、推理小説の後半からいきなり重要人物が出て来て、読んでる方は困惑してるのに、小説中の登場人物は何事もなく受け入れてる、みたいな。もっと序盤から説明してれば違ったように思うんですが。文章や描写はリアリズムの極致、それでいて内容はファンタジー。これがうまい事融合してないように感じたんですよね。これは私が伝奇小説を読まないせいかも知れませんが……。

それでも、物語としての質の高さ、文章のレベルの高さはフリーノベルでも随一でしょう。それでいて、文章に鼻に付くような癖がありません。エンターテインメント性には欠ける点は否定できませんが(恐らく作者さんは、最初からそう言うところは狙ってないのでしょうね)、物語としてはかなりレベルが高い作品だと思います。

「ちょっと不思議でいい話」を読みたい方や、「葉鍵系の電波ノベルには飽きた」と言う方は、読んでみてはどうでしょう? 余韻が残り、今後どうなるかを考えさせてくれるラストに、ちょっと感動できるはずです。

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