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冬の最涯

冬の最涯 ■制作者/直弥(ダウンロード
■容量/30.9MB

中学生の長野大介は、登校途中にバイクの事故に巻き込まれて軽症を負った。バイクの運転手は30代くらいの女性だったが、彼女は記憶を失っていた。大介は女性の話し相手として毎日病院に通うが、そんなある日……。タイムパラドックスの妙味を味わえる短編ノベル。

ここが○

ここが×

■還らざる冬の終わりに

時たま無性に「文章だけの地味な作品」を探したくなる事があるんですが、今回は前回取り上げた「星の砂時計」の作者さんの作品。ちょうど文章だけの作品を読みたいところでしたし、「星の砂時計」がよい作品でしたので、この作品もプレイしてみました。出たのはこちらがわずかに前のようです。「星の砂時計」は妹恋愛ものでしたが、こちらはまた全然雰囲気の違う物語です。タイトルは「ふゆのさいはて」と読みます。

この作品は、タイムリープものというかタイムパラドックスものとでも言いましょうか。文章は硬質で描写も細かく、小説調に始まるんですが、途中でいきなり謎の少女から、「好きな時間に戻って人生をやり直させてあげる」と言われます。主人公の大介は交通事故に巻き込まれて、彼自身は軽症なのですが、事故の相手であるクミを助けたくて、謎の少女の申し出を受けます。

冬の最涯そうすると、クミは事故に遭わずに済むんですが、別の人物が事故を起こしてしまいます。こうして、過去を変えた事で別の未来が生じ、違う人物が事件に巻き込まれて、今度は別の人物が過去を変えるために……という感じで、1つの物語を読み終えたら次の物語が始まり、計3つの視点からの物語が展開する、オムニバス形式の短編集。なかなか凝った作りですね。

謎の少女の存在は非常に突飛ではありますが、過去を変えた結果、今度は別の人物が事件に巻き込まれて、視点が変わるというのは、面白い展開です。また、2本目、3本目とシナリオが進むにつれて、事件の重大性が増していき、緊張感も高くなる構成が上手いです。過去が変わる度に別の人物の視点になるという面白さともあいまって、先を読みすすめたくなる魅力があります。

立ち絵はありませんが、文章力は確かで描写も丁寧。特に主人公級キャラの描き方がよく、絵がないのにどのキャラもとても個性的で魅力的です。ただし、ノベルゲームとして見た場合には色々と不備が目立ちます。例えば台詞がページをまたいでしまったりしているんですが、ノベルゲームは一度に目に入る文字数に制限がありますし、ある程度のところで文章や台詞は切る方が読みやすいですよね。

また、改行があまりにも少なくて画面が文字で埋め尽くされてしまうのも、見た目、読みやすさ共にマイナスポイントとなっている感は否めません。小説の感覚で文章を書くとこうなるのかも知れませんが、ノベルゲームにするならば、しかも全画面テキストでやるならば、ここはやはり工夫があった方が読み手には親切なのではないでしょうか。

シナリオは全部で3本で、3本目のシナリオは事件が事件だけに緊迫感があって盛り上がります。ただ、オチの付け方が「???」というもので、ちょっと考え込んでしまいました(汗)。ラストに綺麗なオチがあれば完璧だったんですが、「ちょっと不条理な話」で終わってしまっているのが、少々残念ではあります。1本目や2本目の事件とも繋がりがあり、不思議少女の存在についてもリンクしており、3本がそれぞれ影響し合っている面白さは感じられるんですが。

まあ、綺麗にまとまった話より、そういう不条理系だとか、読み手に考えさせる余地があるような物語が好きな方ならば、かえってこの方が想像力がふくらんでいいのかも知れません(私はきちんとまとまった分かりやすいシナリオが好きですが)。

システムは吉里吉里。プレイ時間は3本合わせて40分くらい。選択肢はありません。文章が確かで読み応えがありますし、シナリオの構成力には感心させられました。「妹恋愛」ものとはがらりと変わった硬派な感じの作品。この作者さんの作品から、目が離せませんね。

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