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Homeless, the Vagabond

【Homeless, the Vagabond】 推薦
■制作者/ヲサカナソフト(ダウンロード
■容量/17.2MB

ギター1本を抱えて全国を放浪する津田啓。ある日甲府から大月へと向かう電車の中で、1人の少女と出会う。ひょんな事から大月で啓と共に即興演奏を繰り広げた少女は、自分も啓について行くと言い出す……。センス抜群のギャグが利いた、音楽をテーマにしたデジタルノベル。

ここが○

ここが×

■大月駅の改札で、あなた待ってます

私が書き連ねてきたフリーノベル&ADVのレビューはこれで40本目ですが、今作は読者の方からのご推薦によるもの。私のレビューを読んでいただいているだけでありがたいのに、こうして隠れた作品をご紹介いただけるというのは、実に嬉しい事です。

さて私は、小説でもノベルゲームでもそうなんですが、ギャグ系の文章は苦手です。特に商業作品ですが「AIR」なんかは最悪の例で、上滑りしているだけの面白くないギャグですぐにやめてしまいました。フリーノベルのギャグ系の文章も、かつてのエルフとかアリスソフト(最近ではKey&Leaf系)の文章を上っ面だけ真似て、内容空虚な作品(しかも笑えない)の何と多い事か。なので、この作品も実は冒頭ではあまり良い印象を持っていなかったんですが……。

ところがこの作品、読み進めるとどんどん引き込まれます。ギャグのセンスが素晴らしく、ちりばめ方も非常に上手いです。特に、突然「君が代」が流れた時は笑い死にしそうになりました(笑)。それでいて、決してシナリオが崩壊していません。ギャグがシナリオを決して邪魔しません。作者さんの「バランス感覚」は絶妙の一語に尽きます。

シナリオの構成も実に巧み。結構長いお話なんですが、読んでいて途中でだれる事が一切ありませんでした。主人公の発言はギャグ連発ですが、しかしそれでも「AIR」のように鬱陶しく感じなかったのは、言動のそこかしこから彼の「生き様」が見え、そして彼自身が「場をわきまえる能力を十分に持っている」からだと思います。

本作では音楽をモチーフとして取り上げています。読んでみれば分かりますが、かなり細かい点まで描写されており、作者さんが音楽をかなり深く愛している事が伝わってきます。そして作者さんの音楽に対する愛着は、当然キャラクターの魅力にも現れており、メインのキャラクターは、3人とも非常に生き生きと描かれ魅力的。やり取りは、時に軽妙でときにしんみり。この文章力、構成力、描写力にはただ脱帽するばかりです。各地を放浪しながら交流を深め、3人のキャラがそれぞれ自分を見つめ直して行く物語構成も見事。

音楽をモチーフとしているだけに、音楽の使い方も非常に上手く、特に途中で啓たちが演奏する曲が非常に良くできています。物語が本題に入る時に挿入されるFLASHによるアニメーションも、センス抜群。駅の表示板を模した日付表示などの小技も利いています。キャラの立ち絵がちょっと……と思わなくもないのですが、他の長所がそれを補って余りあるほどです。また、背景の加工が絵画風で、これも雰囲気を高めるのに一役買っています。

シナリオは選択肢で3種類に分岐しますが、一番琴線に触れるのは、何と言っても塔子エンドでしょう。ラストで、塔子が作った歌の歌詞が、心に染み渡ります。これは泣けます。反面、メインエンドと思われる「Homeless, the Vagabond」エンドは、ちょっとさらっと終わり過ぎのような気がしなくもありません。また、選択肢もほんのちょこっとしかないので、もう少し選択肢が欲しかったような気もします。もっと色々な選択肢で、あの3人の色々なアクションを見てみたかった気がしますが、これは贅沢というものでしょうか。

音楽をネタにしていますが、音楽の知識がない人でも別段問題なく楽しめると思います。最新版では、音楽用語を分かりやすく解説するTIPSも追加され、よりプレイヤーに優しくなりました。笑いと感動が高いレベルで上手く融合した、かなりの良作。ぜひともプレイしてみてください。

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