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call angel voice

【call angel voice】 ■制作者/呼び声のするトコロ(ダウンロード
■容量/5MB

バイク事故を起こして入院した真田巡。心優しい看護婦、手術を拒む少女、盲目の女性……。入院期間の1ヶ月で様々な出会いと別れを経験し、そして人間的に成長していく。病院を舞台にしたちょっとした日常を描く、心温まる中編ノベル。

ここが○

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■入院生活は十人十色

かなり前に取り上げた「奇跡の外科医に」以来の「病院もの」の登場です。病院ものじゃなくて「病弱もの」なら他にもあるんですが(笑)。私の職場が病院ですから、こういった作品には特に興味をひかれますし、そして本職なだけにいきおい評価する目も厳しくなりがちなのが何なんですけど(苦笑)。

「奇跡の外科医に」の主人公が、医療を提供する側(医師)だったのに対し、本作の主人公はバイク事故で運び込まれた患者です。多少ひねくれ気味で、世の中を斜に構えて見る傾向のある主人公が、病院内でのふれあいを通じて人間的に成長して行く物語です。何せ病院という場所は、大げさにいえば患者の数だけドラマがある訳ですから、その気になればいくらでもエピソードは作れます。本作は、そう言った小さなエピソードを組み合わせて積み上げて、物語を描写していっています。この病院で最期を迎えた少女の幽霊、難病に冒された少女、手術を怖がって受けようとしない少女、癌に冒された盲目の女性などなど……。

それらのエピソード個々は、(多少お決まりすぎる展開をするきらいはあるものの)なかなか良く出来ています。ただ、エピソードを盛り込みすぎて、ちょっと的を絞りきれていない印象は否めません。特に最初にちょろっと出て来た志穂は、手術を受けた後はエピローグで、「志穂ちゃんは退院しましたよ」だけ。そんな薄情な(笑)。まあ、本作で描かれるべきは、あくまで主人公である巡の成長でしょうから、こう言うのもありなのかも知れませんが…。

グラフィックス周りは全般に良い仕事してると思います。タイトル画面も綺麗ですし、恐らくは全部自前で用意したと思われる背景写真も、モノクロなのがかえって雰囲気を出しています。そしてキャラの立ち絵は、多少癖のある絵柄ですが個人的には結構好きなタイプですし、十分上質です。ただ、音楽は素材を使用している割りに、ちょっと耳に残りにくいかな? とは思いました。

さて……注目の(笑)医療関係の描写ですが、概ね大きく破綻はしてないんじゃないかと。ただ、数時間意識を失うほどのバイク事故で負った骨折が、1ヶ月で治癒する訳ないだろとか、それほどの事故なのに治療はギプス固定だけかよとか、そもそも今時ギプスに石膏なんて使わないってのとか、細かいツッコミどころはあるんですが(笑)。まあシナリオに大きく問題を及ぼすような点はほとんどないから、宜しいんじゃないでしょうか(←何を偉そうに)。

ただ、香奈や志穂の病名は結局なんだったのかとか、そう言った肝心な点をぼやかしているせいで、話が深みというか、説得力を欠いてしまっているのが残念なところ。そして、エピソードの積み上げ方はなかなか良いのですが、話の展開のさせ方がちょっと急すぎるように思いました。特にすずと志穂のエピソードとか、香奈の手術のところとか……。

例えば、すずが人形を動かすところとか、せっかくの感動的なエピソードなのに、そこまでの道筋が淡白で急すぎたため、感動の度合いが薄らいでしまっているのがかなり残念です。これだけのエピソードがあるなら、中編ではなくもっと個々のエピソードとその展開をじっくり緻密にして、長編くらいにまで仕立て上げた方が、もっと感動は増したんじゃないかな? と思います。主人公の巡に関しては、最初は「何だコイツ?」でしたが、なかなか良い奴で結構共感してしまいました。文章にも、心に残る言い回しが多かったように思います。

ともあれ、日常の病院業務で殺伐としてしまっている私ですが(爆)、なかなか爽やかな感動をもらえる話でした。初心を忘れがちなリアル病院職員は、これをプレイすれば、国家試験に合格し、意欲に燃えていた頃をきっと思い出すんじゃないでしょうか(笑)。日常を描写した感動ものが好きな方にお勧めです。

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