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春風は夏の日射しと共に

【春風は夏の日射しと共に】 準推薦
■制作者/イコール(ダウンロード
■容量/9.6MB

主人公(名前任意)は、春に大好きだった姉を事故でなくし、無気力状態となっていた。ようやく立ち直り、夏の補習授業から学校へ再び通い始めるが、ある日校舎内で感じた暖かい風。そして彼は1人の少女と出会う……。前半と後半で視点が変わる、一風変わったノベルゲーム。

ここが○

ここが×

■春風は、汚れなき魂の元へ

ノベルゲームで良く出てくる材料として「幽霊もの」はとても多いようで、私がご紹介した中でも何本かあります。この作品では、中でも最近ご紹介した「ゆうとっぷ」にちょっと似た雰囲気があります。とは言えこの作品は、主人公は普通の高校生。どのあたりが「ゆうとっぷ」っぽいかは、プレイしてみればすぐに分かると思います。

今作は、ヒロインである明神彩が幽霊です。幽霊は幽霊でも、彼女の場合は「風の子」と言う存在で、これが今作のストーリーに大きく関わってくる事になります。「ゆうとっぷ」同様、主人公が幽霊の彼女との交流を通じて惹かれて行くなんてのも共通です。そして大きな特徴として、主人公視点のシナリオが終わると、今度はヒロイン視点のシナリオがはじまります。主人公視点で終わっても十分物語として成り立っていますが、彩シナリオで本当の謎がここで明らかになる事になるため、この作品をプレイされる方はこちらも是非読む事をお勧めします。

さて、「ゆうとっぷ」はかなりあちこちで人気が出て来ているようです。幽霊ネタを取り扱ったノベルとしては、なかなかハイレベルなシナリオでしたので、それも頷けるところです。が、あの作品に感動された方が、同じものを求めてこの「春風」をプレイされると、首を傾げる結果になるかも知れません。人にとっては、途中で投げ出してしまう可能性も否定しきれません。

「ゆうとっぷ」は、有り体に言ってしまえばオチは誰にでも想像できます。ツキミが実は……なんて、別に意外な結末でも何でもありません。ですが、キャラ、シナリオ等の材料の料理の仕方が実にうまく、何気ないキャラの台詞回しや舞台設定、状況の描き方などが実に巧みでした。その「状況」で感動させる作品だったのです(例えば、ツキミルートのラストの「写真」などが典型例)。

対して今作「春風」は、「オチの意外さで驚かせよう、感動させよう」と言うのが非常に伝わって来ます。そして、「ゆうとっぷ」の「自然さ」に対して、逆にあれこれ不自然です。状況描写や伏線の張り方も不自然ですし(ヒロイン彩が実は幽霊だったのが分かる辺りは、もう少し上手い方法があるように思います)、キャラの心情描写も、少々過剰気味。自分の過去にとらわれたヒロイン彩の葛藤などは、「何もそこまで」と思わされるところもありました。

シナリオとは関係ありませんが、「気を使う」(「気を遣う」が正解)、「的を得る」(「的を射る」「当を得る」が正解)など、いかにもありがちな誤用が多いのも目につきます。なので、ありがちな材料を、肩肘はらずにごく自然に上手くまとめあげた「ゆうとっぷ」に比べると、感動的な話にすべく集めた材料を、それこそ力技で強引に料理したという感じを強く受けました。

「じゃあこの作品には良いところはないのか?上の『準推薦』は何なんだ?」と言う声が聞こえてきそうですが、個人的にこの作品には何とも言い難い、欠点があるからと切り捨てるのには惜しい魅力を感じます。私は非常に楽しめました。全体のまとまりには欠けるんですが、部分部分で光るもの、そして作者さんの勢いと言ったものを感じます。伏線の張り方や展開のさせ方は上手とはちょっと言い難いですが、物語の大筋はうまく作られており読み応え十分。物語の流れも澱む事なく進むため、冗長な展開にイライラする事もありませんでしたし、ラストは「こう言うオチがつくのか!」と感心させられました。

そして成長していく主人公、彼を支える友人、ヒロインとの交流。そんなキャラクタードラマは温かいものを感じさせくれて魅力的。筆致は決して巧みとは言えないまでも、飾らない無骨なまでの描写に、私は知らず知らずのうちに惹かれていき、一気に最後まで読み終えました。

欠点も目につくんですが、読み終えた時の「物語を読んだ」という充足感は、非常に大きかった一作です。彩シナリオでのオチの付き方はとても綺麗で、読後感も爽やかでした。地味ながら、作者さんの次回作が楽しみになる佳作です。プレイされる方は、必ず主人公視点だけでなく、彩視点シナリオも読んでください。

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