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マイネルシアター物語

【マイネルシアター物語】 ■制作者/まさのり(ダウンロード
■容量/2.57MB

日本ダービーへの道、故障、復活。決して順調ではなく、華やかでもなかったが、どんな有名な馬よりも忘れられない馬マイネルシアター。マイネルシアターというサラブレッドの一口馬主だった作者が送る、競走馬マイネルシアターの半生を綴った物語。

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■ドラマチックでないからこその感動

私は別に馬券は買いませんが、大きなレースは時々テレビで見ます。そうすると、「凄く強い訳ではないんだけど、お気に入りの馬」というのが必ず出て来ます。私の場合は「ナイスネイチャ」「フジヤマケンザン」「サニーブライアン」という馬がお気に入りでした。そして競馬はそういう「見る楽しみ」、そして当然「賭ける楽しみ」。この2種類しかないと思っていたんですが、こんな世界がある事を初めて知りました。この作品は、「マイネルシアター」という実在の馬の、一口馬主さんだった方が作ったもので、もちろん全て実話です。

一口馬主というのは、要は何千万もするサラブレッドを個人で所有するなんて事はまずできませんから、百口とか二百口単位で会員を募集して、気軽に馬主気分を味わうシステムです。「マイネ」「マイネル」という名前のつく馬が、一口馬主システムの馬です。

マイネルシアターという馬は、別にドラマチックな活躍をした馬でも、凄く強かった訳でも何でもありません。ダービーや天皇賞、有馬記念などの大レースを勝った訳でも、オグリキャップやトウカイテイオーのような奇跡の復活を見せた馬でもなく、はっきり言って競馬に興味がある人でも、覚えていない人がほとんどでしょう。私もこの物語で、初めてこの馬の存在を知りました。

実際にマイネルシアターの一口馬主さんだった方が書いただけあって、非常にリアルです。また描写が、淡々としてはいますが非常に堅実で、大変読み易くなっており、快適に読み進む事ができます。反面、演出を含めて全体に地味という嫌いもありますが、演出過多になってしまうよりは良いでしょう。

ただ仕方のない事ではあるんですが、作者さんは一口馬主だったとは言え、マイネルシアターをいつもそばで見ていた訳でも、もちろんレースに騎乗した訳でもありません。なので、描写が非常に地味で、小説というよりは「解説」に近いものになっているのが、ちょっと惜しいですね。これで蹄の音が聞こえてくるようなレース描写でもあれば、何倍にも魅力が増したんですが。とは言え、実際に騎乗した騎手もいる訳で、作者さんとしてもレースを適当に描写する訳にもいかなかったでしょうしね。

この作品で最も印象に残ったのは、皐月賞とラスト近くの館山特別の描写です。皐月賞は、8着に敗れていますし、館山特別は勝ってますが、別に大レースでも何でもありません。ですが、皐月賞の、一瞬だけマイネルシアターが先頭に立った時の描写。そして、故障を乗り越え最後の1勝となった時の描写。ドラマチックでも何でもないですが、だからこその感動があります。地味ですが、非常に質の良い感動です。そして、そんな感動を描く事が、逆に一番難しいのです。恐らく、作者さんが心から競馬を、そしてマイネルシアターという馬を愛していればこそでしょう。

作中には競馬用語が頻発します。適宜解説は入りますが、もしかしたら競馬が全く分からないと、楽しめないかも知れません。ですが、競馬に少しでも興味があれば、是非読んでみてください。私はとても良い一時を過ごさせていただきました。プレイ時間20分程度。選択肢はなし。全体に、私が非常に好きなタイプの作品です。

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