夢を見たその後で
準推薦
■制作者／norinori（ダウンロード）
■容量／4.70MB
ベーカリーカフェの雇われ店長、松本祐希は28才。４才年下の彼女もおり、変わり映えはしないものの安定した毎日を送っていた。そんなある日、祐希の前に、10年前に別れた恋人が現れる。二度と会う事はないと思っていたのに何故……。地味だが味わい深い、現代ノベル。
ここが○
- 生活感溢れる描写。
- 生き生きと描かれたキャラクターが魅力的。
- 素朴ながら味わい深いストーリー。
ここが×
- 序盤はウェイトが多いか。フルスクリーンでの起動もどうかと。
- 恋愛ものとしては、少し起伏に欠ける内容。
- キャラクターの男女比が良くない。
■ただ一言の「ありがとう」の為に
ノベルゲームの作者さんって、やはり学生さんが多いようです。なので、舞台もいきおい学校などに偏りがちになります。そんな中、実際にバン屋に勤めている作者さんによる、「パン屋さん体験ノベル」（←かなり違う）の登場です。当然ながら、そこら辺りの描写はかなりそれっぽくなっており、全体に良い意味で生活感が溢れています。
さて、この作品のツールはYuuki! Novelなんですが、全体にウェイトが長め（特に起動してゲームが始まるまで）なので、序盤にちょっとストレスが溜まります。また、いきなりフルスクリーンモードで起動するのも、ちょっと（苦笑）。ですが、マルチシナリオという訳ではないので、ある程度読み進めていると、さほど気にならなくはなりますが。立ち絵はなしで音楽はフリー素材のMIDI。「Oh! 威信慕」で使われた曲が出て来たところは、ちょっと笑ってしまいました（笑）。
まず目に付くのは、文章。正直言いまして、「……」の連発で時間経過を表すなど、そう文章力は巧みという訳ではありません。ですが、素直な文章なので、大変読み易くなっており、下手にテクニックに凝った文章より印象は良いくらいです。描写量が的確なんですよね。ここを間違えて、１行で済むところと５行も６行もだらだらと描写してしまい、全体の流れが澱みまくる事になります。今作では、そう言う事がなく快適に読めました。
また、キャラクターの描写が上手いなと思わされましたね。キャラ描写というか、会話文が魅力的です。実際に仕事をされてるせいか、「生きた」会話を書ける作者さんだなと感じました。反面、主人公を除けばキャラは全員女性なので、そこらのバランスがちょっと良くないな、と。もう１人、魅力的な脇役男性キャラでもいれば、ぐっとストーリーに厚みが出たのではないかと思います。主人公、やたら女性にモテまくるし（笑）。
物語は、主人公とその彼女はるか、更にはアルバイトの井上愛子の３人をメインに進み、10年前に別れた彼女の田村美香との再会で、微妙に主人公の日常が変化して……という感じ。「何故今になって美香が自分の前に？」というのが、シナリオの核になっています。主人公にあからさまに好意を示す井上さんが、実にいい感じです（笑）。
その辺のストーリー展開は、よくあると言えばよくある話なんですが、「会話文」がシナリオを彩っている印象で、なかなか面白く読めます。ただ、今作を分類すれば一応恋愛ものだと思うんですが、主人公には既に彼女がいて、また彼女との仲もとても安定しているので、恋愛ものとしての面白さはちょっと淡白と感じました。また、アルバイトの井上さんが極めて魅力的なキャラクターで、彼女であるはるかを食ってしまってるんですよね。「井上さんエンドが欲しい！」と思ってしまいましたから（笑）。
この作品は作者さんの処女作だそうです。ウェイトの問題など、作り慣れていない事に起因する不備はありますが、とても良いセンスを感じる作品で、個人的には気に入りました。プレイ時間は１時間半ほどです。作者さんのBlogによると、次回作の構想などもあるようで、これは楽しみに待ちたいですね。