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A Story of Black II

【A Story of Black II】 準推薦
■制作者/MIZU(ダウンロード
■容量/24.7MB

久世直人が目を覚ました時、彼はすぐに自分の体の異変に気が付いた。漆黒の闇の世界。彼は視力を失ってしまっていたのだ。だが、しばらくして、彼は更に大きな衝撃を受ける。彼の耳には何も聞こえない。彼は、聴力も失ってしまっていた。独特の設定とクールな作りの、一風変わったノベルゲーム。

ここが○

ここが×

■想像力を刺激する、「真っ黒ノベル」第2弾

「病院四連作」の3作目は、これまた非常に個性的な作品。「A Story of Black」の作者さんの新作です。「II」とありますが、前作と直接の繋がりはありません。そして前作は、目の付けどころは面白く、独特のセンスも光っていましたが、描写が全体に淡白で、物語もまとまりを欠いていた感があるんですが、今作は前作から大幅な進歩が感じられました。「準推薦」でのご紹介です。

この作品で何が大変かって、何せ主人公は目も耳も不自由です。それに付け加えて、「一人称」による描写。つまり、描写の中に視覚や聴覚に関するものを一切入れられないという事です。触覚や嗅覚、味覚、あとは微妙な雰囲気の変化や、主人公の心情変化のみで全てをこなさなければなりません。実際やってみると、これはもの凄く困難な仕事である事がすぐ分かります。何せ、登場人物の会話さえ描写する事ができないのですから。

そのような制限された条件で、この作品は情景やキャラクターなどを、実に見事に描写していると思います。また、描写がくどくなる事もありません。それどころか、徐々に主人公の成長すら感じ取れますし、当然風景や人物の容姿に関する描写は一切ありませんので、凄く想像力を刺激されます。立ち絵や背景が豪華なノベルゲームもいいですが、この作品にはそう言った作品にはない魅力があると感じました。

作品の舞台は、最初から最後まで病院です。ですが、描写の巧みさと、それに「進行速度」の適切さが相まって、退屈せずに読めます(ここを間違ってしまうと、冗長極まる日常描写ばかりで退屈な作品になってしまう)。特に、主人公が点字を学ぶ場面を描写したのは、良いアイデアでした。ご丁寧に、点字は全て実際にどんなパターンなのか説明してあります。点字パターンの描写など、物語進行上から言えば不要であるはずですが、主人公が点字の距離を必死に指で読み取ろうとする様子は、点字パターンの解説がなければ、説得力を欠いた事でしょう。また、主人公の成長を、目に見える形で表してくれており、物語上のアクセントにもなっていました。

難点ですが、オチがかなり唐突に感じました。唐突というか、伏線が生きていないんですよね。物語中で、いかにもな伏線があれこれ張られてはいるんですが、それがオチで1つに繋がってません。「どうくつものがたり」にしてもそうですし、謎の生命体にしてもそう。まあどちらも、ある事柄を暗示してはいますが、あのオチに繋げるには、ちょっと伏線の提示が不十分な気がします。なので、唐突に感じてしまったんでしょうね。ラストで、伏線が見事に回収されて綺麗なオチがついていたら、「推薦」をつけても良いと感じただけに、ちょっと惜しまれます。

もう1つは、これは1回クリアした人じゃないと分からないと思いますし、2つあるラストのうち片方で、主人公自らも言ってますが、「そんな目的のために、何故こんなややこしい手法を取らないといけないんだ?」という事。この理由付けと、そのための論理的裏付けに、もっと説得力が欲しかった気がします。この2点は少し気になりました。

音楽は素材です。物静かな感じの曲が多く、選曲も良いと思います。選択肢は多くありません(2つしかなかったような)。ラストは一応2種類に分岐しますが、途中の選択肢1つで決まりますので、そこに来たらセーブしておきましょう。また、前作同様即死選択肢もありますのでご注意(笑)。ツールは吉里吉里。まあ派手に分岐する訳じゃないのでなくても困りはしませんでしたが、既読スキップがあればなお良かったですね。

プレイ時間は、ゆっくり読んで2時間くらいでしょうか。独特の雰囲気と、大幅に進歩した描写の巧みさは、次回作への期待を感じるに十分な出来映えです。一風変わった「病院ノベル」を、是非お試しあれ。

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