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僕の愛する三匹

【僕の愛する三匹】 ■制作者/九州壇氏(ダウンロード
■容量/5.81MB

主人公は、既に2匹の動物を飼っていたが、ある時映画館で黒猫を拾った。自宅に連れ帰ると、既に飼っていたふくろうとペンギンが出迎えてくれたが……。10分で読める風変わりな短編作品。

ここが○

ここが×

■自分自身を、描く

これを読んでらっしゃる方の中で、物語を書いた事がある経験を持つ方は、意外と少ないのではないでしょうか。今回は、物語を書いた経験がある方なら、きっと思い当たる節があるであろう短編作品をご紹介。「僕の愛する三匹」。ちょっと意味深なタイトルです。

この物語は、普通に読んでも10分ほどです。そして恐らく、物語を書いた経験を持たない人だと、「一体この物語は何が言いたいんだ?」と、頭に?マークが浮かんでしまうのではないかと思われます。逆に、物語を苦労して仕上げた事がある方なら、象徴的な描写の中に、いかにもな点をいくつも見出して、「そうそう!」と思わず頷いてしまうに違いありません。

例えば、多少自己陶酔気味に筋トレを繰り返すペンギン。物語を書こうと思ったら、「自己陶酔」がないと無理です。でないと、まず最後まで仕上がりませんし、自分が陶酔できない物語に他人が陶酔するかというと、それは難しい相談です。斜に構えて他人事のように淡々と書いた物語では、他人は共感しません。

また、猪突猛進なふくろう。また物語は猪突猛進でなければ、完成しません。物語を書く上では、作者は嫌でも自分の作品を何十回となく読みます。当然欠点もばしばし目につく事になりますが、そこを割り切って「ここはこれでいいんだ!」とある程度妥協し突っ走らないと、永久にリリースできません。

が、その2つだけでは何とも独りよがりな物語になる事は必定。他人に読ませる物語を作るには、この作品の猫のように、自己陶酔、猪突猛進な自分に、冷水をぶっかけるような存在が必要です。そうでないと、物語は客観性を欠きますし、何より自己陶酔や猪突猛進だけで作っていたのでは、人に読んでもらえません。自己に陶酔しつつ、脇目もふらずに進みつつ、それでいて自分で自分に冷水を浴びせ続ける。

その3つの要素はいずれも自分自身です。そんな自分自身を、文字を通して(音楽家なら音楽を、絵描きなら絵筆で)表現する。それが「三匹を飼う」事であり、全ての要素には「愛」が必須である。そんな事を感じました。どの要素1つ欠けても物語は仕上がりませんし、やはり何より自分の陶酔ぶり、猪突猛進ぶり、そしてそんな自分をせせらわらうシニカルさに対する愛が、物語作りには必要なのではないかと。もっとも、この「三匹」はいろんな物を象徴しているんでしょうね。自分の描くキャラクターだったり、プロットだったり、文章だったり……。

ですから、この作品のタイトルは案外深いと感じました。技術がどんなにあっても、やはり「愛」がない作品は読者に感銘を与えられないんですよね。それでいてこの作品は「愛を持ちつつも、自らをちゃんと見つめなさい」と言っているように読めました。

その意味で、私は大変共感するところの多い物語でしたし、ラストも前進感のあるものでした。文章力もかなり高いと思います。しかし既に書いたように、いかんせん物語を書いた事がない方には、全くいわんとするところが伝わらないと思われます。またエンターテインメント性も皆無で、「楽しい」と感じられるような作品ではありません。個人的には、ノベルゲームはやはりエンターテインメント性を重視したいところです。

しかし、こんな小品があっても良いと思います。この作品に共感する事ができたら、どうぞ楽器なりパソコンなりキャンバスの前に向かってみてください。もしかしたら、プレイする前より創作意欲が旺盛になった自分を見付けられるかも知れませんよ。

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