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SAKANA

【SAKANA】 ■制作者/P.o.l.c.(ダウンロード
■容量/41.9MB

小早川誠は20歳の大学生。幼なじみの愛美や友人の岬祐一と、それなりに楽しい毎日を送っていたものの、ある意味無為とも言える生活だった。ある日、誠は自宅の玄関で急に倒れてしまい、目が覚めた時には……。ちょっと不思議で前向きな、今を見つめ直すための短編作品。

ここが○

ここが×

■決め技はハットトリック

手紙」「秋人」「透明な優しさ」と、過去3回レビューに登場している作者さんの作品です。レビューに4回登場というのは、最多タイですね。過去の作品は「シンプルでありながら、目をひきやすい印象的なタイトル」が特徴ですが、この作品のタイトルも「お?」と思わされます。この作品自体は3年くらい前に出たもので、最新ではありません(全然リリース順にプレイしていない私)。

主人公は大学生で、登場人物は3人です。主人公の幼なじみの愛美、そしてギャグ担当の友人岬祐一。よくある組み合わせと言えますが、この作者さんは日常描写が上手いので、冒頭からなかなか惹き付けられます。また、この作者さんは「日常を通じてテーマを浮かび上がらせる」のも上手いと感じます。「手紙」も「透明な優しさ」もそうでした。

では、今作のテーマは何かというと、それは「今を生きる」という事にあるのではないかと思います。こういうテーマを描く場合、もっと大げさな事件を使って描く事ももちろんできるでしょう。しかし、この作品では(事件それ自体は突拍子もないものですが)、「外側から自分の生活を見る事で、そのかけがえのない事を知る」という、変わった描き方をしています。そして、それが上手く決まっていると感じますね。

例えば、後半で愛美が主人公の微妙な変化に気付いた時。あるいはザキ君が、変わった主人公と噛み合わない会話をする時。何でもない描写のようですが、それに対する主人公(さかな)の受け答えが、また良いのです。大げさな事件に頼らずに日常の大切さを浮き彫りにするというのは、ともすれば説教臭くなってしまいがちな面もあると思いますが、今作はすれすれのところで上手にそれを回避しています。なので、ラストがとても前向きなんですよね。

難点は、さかなの存在に一切説明とか世界観的裏付けがないので、終わった後に「結局あれは何だったの?」となってしまう恐れがあります。「それはそういうものだ」と片付けてもいいのですが、押し付けがましくならない程度に、何らかのフォローがシナリオ内であればと言う気もしました。ラストは確かに前向きではありますが、「ちょっとちょっと、それで終わっちゃうの?」と思ってしまった事も事実です。

後は、幼なじみの愛美とか友人のザキ君が、「主人公の日常を描く道具」みたいになっているんですよね。もちろん、さっきも書いた後半の場面とか、ラスト近く、愛美が主人公に語りかける場面など、見せ場もあるんですが、シナリオ自体にキャラクターがもう一歩踏み込んで絡んでいれば、面白かったのではないかと思います。

私がこの作品で一番気に入ったのは、実は序盤のザキ君の「ハットトリック」ネタです。ツボにハマってしまい、爆笑しました。どれくらいツボにハマったかと言うと、職場で思い出し笑いが出てしまうほど。効果音も手伝って、絶妙な笑いどころでした。って、ここを推すのはこの作品の本筋からずれている気がしなくもありませんけど(笑)。あの場面の主人公とザキ君の会話のずれっぷり、かなり好きです。

シナリオに論理的整合性だけを求めてしまうと、この作品はラストで「あれっ?」と首を傾げてしまうかも知れません。しかし、日常を「砂時計の砂のように」積み上げて、前向きなラストを描く様子に感心しました。読めばプレイヤーもきっと前向きな気持ちになれるはずです。プレイ時間は45分くらい。ラストの歌にはびっくりしましたが、作品のテーマによく合っており、余韻を高めています。「もしかして自分、無為な毎日を送ってる?」と思った時に、この掌編をお勧めします。

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