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風の描いた道

【風の描いた道】 準推薦
■制作者/ロム虫(ダウンロード
■容量/542MB

立花柚木は高校2年生の少年。ある日、いつもの通学路のT字路で、信号待ちをしている女生徒と出会う。彼女は、同じ高校に通う3年生の生徒、水澤衣緒だった。その日から始まる、柚木と衣緒の「宝探し」。魅力的なキャラのやり取りが不思議な余韻を残す、ファンタジックな物語。

ここが○

ここが×

■本当の宝物を探しに

ちょっと前にご紹介した「夏休みin宿題」が877KBという、史上最小の容量だったのに対し、今度は542MB。あまりの巨大さに、一瞬言葉を失いました。ムービーが入っている訳でも、歌が入っている訳でも、BGMが100曲入ってる訳でも、フルボイスという訳でも、イベント絵が100枚入ってる訳でもありません。むしろ、立ち絵もイベント絵も何もなし。背景画像はほんの数枚。一体どこにこの容量を使っているのか、謎です(BGMが全部wavとか……)。

この作品は、非常に変わった作品です。物語は全6話構成。一話読むのは20分というところでしょう。全体で2時間ほどです。そして序盤で、思わず「なぬ?」と言ってしまうような、独特の世界観が明らかにされます。これをここで書いてしまっては面白くなくなるので、それは皆さんが実際に確認してみてください。

そして物語は柚木と衣緒の「宝探し」を主体に、あくまで淡々と進みます。この作品で特によく出来ているのは、キャラクター同士のやり取りです。一枚絵も立ち絵も何も出て来ません。が、描写とやり取りでキャラクターが見事に立っています。個人的には、中盤辺りの「さすが袖木くん」「惚れ……いや、何でもな」「あと一本切れば惚れてたのに」のやり取りに、「おっ」と思わされました。また、友人の亮も、この手の男性友人キャラとしては、くどすぎずそれでいて立ち位置はしっかりしており、この3人中心の日常描写は、とても良好です。

さて、この物語は世界観がとても変わっています。後半に至って、その世界観の一端が明らかになるんですが、明らかになった時点でさらに「なにぃ!?」と言ってしまいます(汗)。「ふむなるほどそういうものか」と素直に納得しておかないと、読んでいられないでしょう。物語にもの凄く論理による組み立てを求める人(私の事か?)には、合わないかも知れません。

ただ、キャラクターの描写、あるいはキャラクターの行動原理はとても良く描かれています。確かに「こうしたからこうなった」という論理の部分は弱いんですが、「こういう理由があるからこうする」の動機の部分はきちんと描かれており、それが故にこの変わった世界観を、キャラクターが上手く支えていると言えます。そして、本作のテーマは、それほど前にのさばり出ては来ないんですが、後ろからしっかりと世界観に色づけしていました。

この作品、文章は上手いです。上手いんですが、言い回しに凝り過ぎて、一部展開のテンポがちょっと悪いのが気になりました。また、ノベルゲームとして見ると、あまりにも改行が少なくて読み辛いです。ノベルゲームであれば、やはり読み手がもっと快適に読める配慮が欲しいように感じました。ついでに、フォントサイズがえらく小さくて参りました。

音楽は、どうやら作者さんの自作のようです。メインテーマのような曲が、不思議な世界観に上手くマッチして、独特の後味をひきます。ラストも綺麗に決まっており、読後感も良いです。ただし、インストール作業が煩雑なのはマイナスポイントです(ツールはLive Makerだというのに)。

物語としては、エンターテインメント性があるという訳ではなく、ひきが強い訳でもありません。しかし、読み終えたら何とも言えない余韻を味わえる作品です。すべてすっきり論理で納得できる作品ではないですが、色んな想像力を刺激してくれる物語です。容量でまちがいなく尻込みしてしまうでしょうが、騙されたと思って読んでみてください。

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