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吟遊詩人

【吟遊詩人】 ■制作者/九州壇氏(ダウンロード
■容量/14.8MB

主人公は、小説を書くのが趣味で、いつも原稿用紙に向かっては物語を書いていた。書き上がった物語は姉に見てもらうのだが、評判はいつも悪く、けちょんけちょんにけなされるのがオチ。ある日主人公は、ラッパーの兄にクラブへと連れ出されるが。15分で読めるが、独特の強い印象を残す小品。

ここが○

ここが×

■物書きはみな吟遊詩人

僕の愛する三匹」の作者さんによる、新作です。前作同様今回も短編でしたが、比べると明らかな変化点があります。それは、「前作より格段にノベルゲームっぽくなった」のです。作りの部分にしてもそうですし、プロローグみたいな箇所を読み進めた後にタイトルが出る辺りにしてもそうです。こういう、着実に分かる進化というのは、読んでいる側としても嬉しくなります。

さて、前作はかなり変わった手法で、物語を書く人の心中思惟と言いますか、そういうのを描いた作品でした。面白い味を持っていたのは確かなんですが、いかんせん物語としては非常に分かりにくかったきらいがあります。その点、今作は物語の作りとしても分かりやすくなっています。主人公が小説を書くのが趣味ですからね。取っ付きやすさも大幅に上がっています。

15分で読める作品で、割と特殊なテーマを取り扱っているんですが、ちゃんと起承転結があり、1つの物語として読めるようになっています。短編故に、少々展開が早いと感じる事もありましたが、展開の組み立て自体は良く出来ています。ここで盛り上げて、ここで落とす、というのがちゃんと見えます。もちろん、そういう作りの物語だけでなく、そういうのが一切見えず、通して読んだ時初めて作者さんの言いたい事が分かる作品もあるのですが(前作はそういうタイプでしたね)、ノベルゲームのシナリオとしては、私はこの作品のような物語の作りの方が、良いと感じます。

登場人物は3人。主人公と、主人公の姉と、主人公の兄。キャラクターメイキングの方向としては、若干極端気味ですが、この作品の場合、テーマがどちらかと言えば地味ですから、姉の口の悪すぎるところや、兄貴のちょっと変な性格(でも決して悪い奴ではない)が、地味目のテーマに絡まって、物語が上手に回っていると思います。このキャラクターメイキングは参考になると思います。

テーマが地味とは書きましたが、この作品が読者に訴えかけて来る力自体は、とても強いものです。これは、テーマと物語が密接に結びついているからでしょう。テーマと物語を密接に結びつけると、読者に訴えて来る力は強くなりますが、下手をすると押し付けがましくなります。逆にテーマと物語を強く結びつけないと、押し付けがましさはなくなりますが、読者に訴える力は弱くなります。この作品は、訴えかけて来る力が大きいのに、変に押し付けがましいところがないのです。これは素晴らしい美点だと思います。

そんなに派手な物語ではないのですが、この作品からは作者さんの秘めたる底力を感じます。もうちょっと長くて、もう一押しがあるか、もうちょっとエンターテインメント性のある物語ならば、「準推薦」でした。しかし、この作者さんは、長編を書いてこそ力を発揮できるのではないかという気がします。次回作は中編くらいの長さのもののようですので、期待したいと思います。

それと、終盤で出て来る夜明けの写真など、背景画像がとても雰囲気を出していたと思います。また、後書きの背景も、気が利いてていいですね。こういう「制作者さんの感覚」が伝わって来る作品はとても珍しいですし、新鮮です。前作同様、物語を書いた経験がある方はもちろん、「書いてみようか」と思っている方も読んでみてください。物語を書いた事がない方が読めば、原稿用紙に向かいたくなるかも知れません?

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