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海の記憶

【海の記憶】 ■制作者/Rainforest(ダウンロード
■容量/24.8MB

ある夏の日、浜辺でたたずむ少年。彼は、幼い頃の思い出で自分を縛り付けていた。重い記憶に縛られ、他人とも関われない彼の前に、ある日転校生の少女が現れる。彼女は「海であなたを待っている人がいる」と言うが。ラジオドラマのような雰囲気の、一本道の短編作品。

ここが○

ここが×

■夏の海に待っている人がいる

ノベルゲームにおいて、立ち絵やイベント絵の存在が、大きな一要素になっている事は間違いないでしょう。しかし、立ち絵がないからと言ってその作品の味わいが劣るかと言えば、そんな事はありません(むろん、立ち絵があるからと言って何かが劣るわけでもない事は、言うまでもありません)。この作品には立ち絵等は存在しませんが、むしろその分雰囲気を高めています。

その雰囲気の大きな一因となっているのは、上質な文章でしょう。BGMは全体に少なめなんですが、そこを文章が上手に補って、ラジオドラマ風とでも言いたくなるような雰囲気が出ています。適度な生活感と適度なリアリティが心地よい読み応えを生んでいます。「雨の声」の作者さんによる作品ですが、文章力、描写力の巧みさは、あの作品と同様です。

反面、物語は非常によくあるタイプです。過去の記憶にとらわれて他人との関わりを嫌う少年というのも、同様の作品が多々あります。転校生の少女が実は、なんていうのもあまりにもストレートです。

シナリオがありがちなら、そこをキャラクターのやり取りなどで補ってもらえれば、と言いたいところなのですが、この作品にはキャラクター同士のやり取りがほとんど存在しません(汗)。徹頭徹尾、主人公のモノローグや過去回想で話が進むんですよね。もちろんテーマによってはそういう進行もありでしょうけど、これだけアウトラインが既出の作品であるなら、やはりキャラクターなどで何らかの独自性は欲しかったように思います。

例えば、(ものすごくありがちな手段ではありますが)転校生である汐美と主人公のやり取りをもっと交えるだけでも、読んだ印象はかなり変わるはずです。また、それをしても良いくらい、汐美はキーポイントを握るキャラクターのはずなんですが、そういう場面はほとんどありません。なのでラストでも「あれれっ?」という印象でした。

あえてこういうテーマで作るなら、文章でここまで語るよりは、むしろ「あおぞら幼稚園」の作品くらいに、描写も直球で行った方が、読後の満足感は高かったんじゃないかなと感じなくもありません。それくらい、この作品で描かれている物語というのは直球ど真ん中なのです。それでいて、描写はちょっと捻り過ぎ、語り過ぎのきらいもあります。なので、この作品の場合は、「描きたい事」と「描く手段」が、ちょっとミスマッチという感覚があります。もちろん描く手段の技術的な巧みさそれ自体は、大したものなんですが……。

既に書いたように、BGMは少なめで、静かに淡々と進みますが、不思議と違和感はありません。文章と静かな進行が、ここでは上手くマッチしていると感じました。ただ、ウェイトの類いはちょっと多く、再読時は少し辛いですね。ツールが「Yuuki! Novel」であるせいもあるかも知れませんけど。最近Live Makerに押されて、Yuuki製の作品がめっきり減りましたので、久々にYuuki作品を読むとちょっと嬉しくなりますが、プレイヤーに優しくないツールであるという点は、変わってないようです(笑)。

作者さんは「読了まで30分」と書かれていますが、30分で読むのは恐らく不可能だと思います。一時間弱というところではないでしょうか。シナリオ的な妙味は薄いんですが、文章と静かな展開が生み出す雰囲気は、味わってみる価値があるのではないかと思います。

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