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memoRia

【memoRia】 ■制作者/Black Hemisphere(ダウンロード
■容量/8.54MB

ある日、帰宅途中で高校生の村井清は道に迷ってしまった。あてもなくさまよっていると、とある空き地へとたどり着く。空き地に生えていた大きな木の元で眠り込む清、そして出会った少女。2人の楽しい日々が幕を開ける。想い出のピースを埋める9月の、小さな物語。

ここが○

ここが×

■葉を隠すなら、樹の中に

ノベルゲームには「季節感」のある作品が結構多いですね。その中でも、最も登場する事の多い季節は、夏ではないかと思います。この作品の舞台も夏。開放的で、突き抜けるような空、焼け付く日射しと、なるほど夏は「想い出として絵になる」要素がとても多い季節です。私たちの想い出に残っている光景も、案外夏が一番多いのかも知れません。作中の時期は9月ですが、どことなく夏っぽさを感じます。

この作品は、いわゆるボーイミーツガールもので、お約束通りのスタートです。しかしその出だしの雰囲気が良いですね。主人公の清が道に迷って、空き地にたどり着くところから物語が始まるのですが、舞台となる空き地、そして大きな木の背景グラフィックスが、とても良いです。そして、何より絵がもの凄く綺麗。いわゆるアニメ調の絵ではありませんが、立ち絵、1枚絵ともあまりの見事さに驚きました。特にイベント絵の美しさは素晴らしく、どの絵も必見です。

さて、出だしはボーイミーツガールですが、物語は主人公とヒロインの過去を絡めて進んでいきます。……が、尺が少し短めの上、過去の描写が十分とは言えないので、後半の展開が若干唐突気味なんですよね。前半いい雰囲気で進むだけに、ちょっともったいない感じです。中盤も、主人公とヒロインの交流がもう少し描かれて欲しいな、と感じました。描かれてはいるんですが、「一歩足りない」という風に感じてしまうのです。伏線どうこうというタイプの物語ではないんですが、物語的ではなく、場面演出的な伏線がもう1つあればと思いました。ペンダントが、過去回想で上手く生かされていれば、とか。あとは、夏らしいイベントが1つあれば、とも思いました。

それでも、「あー、ここで終わるんだろうな」と思ったところで、意外にも物語はそのまま終わらず、「おや?」と思うような引っ張り方をしてくれたのが、好印象でした。後半は確かに少々唐突でしたが、その後の展開で物語全体をしっかり締めていたという感じです。

ちなみにツールはYuuki! Novel。最近Yuuki製の作品、減りましたね。同じようなGUIのノベルゲームツールにはLive Makerがありますが、Live Makerと比べてしまうと、Yuuki! Novelは、プレイヤーには色々厳しいものがあるところは否定できません。たまにYuukiの起動画面を見ると、少し安心しますけど(笑)。しかしこの作品は、意外にもあんまりYuukiっぽさがありませんでした。1本道というせいもあるでしょうし、絵やレイアウトの綺麗さも一因でしょう。Yuukiって、全画面ウィンドウで立ち絵なし、というパターンが多い気がしてましたので。

ところで、この手の作品は終わり方が妙に切ないと言いますか、やるせない事が多いんですが、この作品は、主人公の前向きな努力で、綺麗な終わり方をします。ご都合主義と思われる向きもあるでしょうが、個人的には綺麗な終わり方のために努力した主人公の姿勢には、好感を覚えます。読者を泣かせるよりは、幸せな気分にさせる方が、はるかに難しいものですからね。その終わり方を、主人公が自分で掴んだという印象が、良い読後感に繋がっていると思います。

ただ気になったのは、文章。別段読みにくかったりはしませんが、一人称なのか三人称なのか、イマイチはっきりしない感じで何度か「あれ?」と思ってしまいました。この作品ならば、一人称で統一してしまっても、別に問題はなかったような気がします。

全体的に荒削りではありましたけど、作者さんのやる気が大いに伝わって来て、こういう作品を読むと、作者さんに注目してみたくなります。プレイ時間は40分程度。エンディングの綺麗なレイアウトも素敵。季節感を感じられる小品です。

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