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愛拶

【愛拶】 ■制作者/KAS(ダウンロード
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ある雨の日。雨が嫌いな主人公は、学校へ向かう道から外れて、気の向くままにあちこちをぶらついていた。行く先々で出会う同級生、姉、先輩、そして別れた彼女。彼らとのやり取りの中で、主人公は一体何を思うのか? プレイ後に思わず考え込んでしまう、短編ノベル。

ここが○

ここが×

■愛は寛容にして慈悲あり

画面写真で気付く方もおられるかも知れません。この作品は「スイーツ(笑笑」の作者さんによる新作です。前作同様の、全編モノクロの渋い画面ですが、絵は今作の方が圧倒的に洗練されています。シンプルな線で、表情が黒いネガフィルム風のデザインは、とてもシックで雰囲気抜群です。

この作品をプレイしてまずびっくりするのは、その舞台設定です。何故か、舞台が海の底なのです(!?)。海の底なのですが、別に主人公達は特殊生物でも何でもなく、普通の人間です。通学は「海道」と呼ばれる水の流れのようなものに乗って行くんだそうです。まるで伝奇かファンタジーのような設定ですが、この作品にそういう要素は一切なく、「この設定には一体どんな意味が?」と、またも深読みをしてしまいました(笑)。ま、あまり気にせずに読んで大丈夫だと思います。

この作品も、前作同様に登場キャラクターとの不思議なやり取りが主体となっており、物語らしい物語はありません。前作のように、ストーリー性でもなくエンターテインメント性でもなく、メッセージ性で勝負する作品です。その中心は、タイトルの通り「愛」だったりします。

が、そのメッセージ性が少々あいまいというか、ストレートに伝わって来にくい感じがしました。愛というのは、古今東西様々な作品で取り上げられる作品で、それこそ旧約聖書で既にテーマになっているほどですから、新しい切り口というのは難しいんでしょうけど、もっとまっすぐな視点で取り上げた方が、テーマが伝わり易いのではないかと。

というのも、あくまで個人的にですが、愛ってそんなに捻って取り上げるテーマという気がしないんですよね。だって「どうして人は食事をするのか」「どうして人は眠くなるのか」と同じようなレベルだと思うんですよ。愛って、頭で考える事ではなく行動であると思うんですよね、私は。理論を探る事ではなく、実践。こと愛というものについては、くどくどと哲学的な事や思想的な事を述べるより、「君のためなら死ねる!」という大げさな物語の方が、訴える力は大きいのです。なので、前作同様にキャラのやり取りに終始している今作は、少しテーマが伝わって来にくいのです。前作と比べると、テーマと作風がマッチしにくいと申しますか。

それでも、相変わらず登場人物達のやり取りは、考えさせられます。特に先輩とのやり取りは、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と思いました。例によって、理解できても共感できるかは、読んだ人次第という気もしますが、じっくり読んでみる価値のあるやり取りが多いです。

前作同様、今作も音楽やSEは全くありません。これも作風かも知れませんが、やはり音楽や効果音はあった方が、ノベルゲームとしては物語やテーマをより際立たせ易いと思います。重要なところで1つ2つ効果音を入れるだけでも、随分違ったのではないでしょうか。特に、世界観が特殊で、雨が海面に当たる音などの描写もあるんですから、そういう音を入れ、そういう雰囲気の曲を入れれば、全体の雰囲気が大幅に強化されていた気がします。

今回、選択肢はなく読むだけなので、プレイ時間は15分程度です。システムはNScripter。一度読了したら、もう一度じっくりと読んでみる事をお勧めします。私もそうしました。たまには、楽しむためでなく、考えるために読んでみるのも良いものです。

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