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君といた夏

【君といた夏】 準推薦
■制作者/HIMMEL(ダウンロード
■容量/118MB

高校生の蒼村流斗は、通称「天才不良」。何事にもやる気がなく、その日も終業式を屋上でサボっていた。そんな流斗の前に現れた謎の少女。屋上に現れた教師を吹っ飛ばしたその力は一体? 流斗は成り行き上少女を自宅に住まわせる事にするのだが。後半見せてくれる長編物語。

ここが○

ここが×

■幸せだから、みんな笑顔です

フリーのノベルゲームで多分タイトルに一番多く含まれる字は、「夏」だと思います。当レビューではこの作品で、何と20作目。タイトルに「夏」とは入ってなくても、季節が夏という作品はとても多いでしょう。それだけ、夏という季節は創造力を刺激する何かがあるのでしょうね。「君といた夏」、タイトルはシンプルですが、心に残る物語のご紹介です。

この作品は、分類すれば「時限恋愛もの」でしょうね。ある日、正体不明の女の子と出会い、何故か一緒に生活する。一番最近では「桃色☆パニック」がこのパターンですし、「あまやどり」なんかがそのものずばりですが、季節が夏で、主人公が異常に他人との関わりを嫌う辺りなどは、「ふたつのファントム」も思い起こさせる雰囲気があります。

さて、この作品は主人公が過去のとある事件から、異様なまでに他人との関わりを嫌うという設定です。口癖は「面倒くせぇ」。これが、もう嫌になるほど連呼されるので、しまいには「しつこいわ!」と言いたくなるほどです。もちろん、この主人公の性格は、シナリオの重要なポイントにも関わりますが、もうちょっと何とかしようがなかったかなあと思います。

たとえば、同じように主人公が他人との関わりを嫌う作品では、上にも出した「ふたつのファントム」がありました。しかしこちらは主人公が、それをあまり表に出さない「空気の読める奴」でしたから、意外に読者には負担をかけません。また「冥王星と透明少女」もそういう主人公でしたが、こちらは主人公の気持ちにある程度感情移入できます。

しかしこの作品の場合は、人にお礼は言えない、女性に対するデリカシー皆無という、主人公のあまりの中二病ぶりに、途中で怒りすら込み上げてきます(汗)。かなりの長編(4時間くらい)ですから、正直に言いまして、多くの人が途中で付き合いきれなくなって、ゴミ箱行きにしてしまうレベルだと思います。物語自体は大変優れているのですから、これは非常にもったいない点です。

例えば、途中から出て来るサブヒロインの千尋を、もうちょっと上手く絡ませるとかすれば、かなり印象が変わった気がするんですが、彼女がまた空気が読めないキャラだったりします(苦笑)。「ムゲンの絆」の日向みたいなキャラがいれば、もっとプレイヤーにストレスなく、物語の良さをアピールできると思うんですが。

と、難点をまず挙げましたが、中盤から後半の展開と主人公の成長ぶりは、一見の価値があります。ヒロイン千歳の謎の力(冒頭でも出て来る超能力まがいの力)について、もう一つフォローが欲しかった気もしますが、後半はさまざまな要素が絡み、それらがバランスよく物語を押し進める上に、主人公の成長物語も加わって、非常に「読ませる」力を持った物語です。だからこそ、かなりストレスのたまる前半が惜しまれるんですが。

しかしその前半があったからこそ、後半が大いに生きたというのも、また事実。個人的には、流斗の名前の由来を語るシーンと、今回のレビューのタイトルになったシーンが非常に気に入っています。特に後者「幸せだから、みんな笑顔です」が出てくるシーンは、屈指の名シーン。どんなシーンでこの台詞が出てくるのか、楽しみにプレイされてください。これは感動します。要素を盛り込み過ぎて、ちょっと消化しきれてない箇所がなくもないんですが、伏線も、上手に張って上手に回収しています。

文章力はなかなかのレベルで、軽快に読めます(主人公の言動は置いとくとして)。ただ、鍵カッコで囲まれた同じ人物の会話がずっと続いたりして、「あれ、これ誰がしゃべってるの?」になる事がちょっと多かったと感じます。それ以外は、過剰に説明っぽくもならず、読みやすくテンポの良い文章です。ただ、ラストはとても有名なある商業作に似ているような気が……。とある台詞も一緒だったりしますし。ま、だからと言ってこの物語の感銘を損なったりは、全然しませんけどね。

システムはNScripter。プレイ時間は4時間で、選択肢はありません。前半はとにかくきついですが、投げ出さずに後半まで頑張ってみてください。間違いなく印象に残る、一夏の幸せな物語を味わう事ができますから。

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