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青い空に君の彼方

青い空に君の彼方 ■制作者/からしな(ダウンロード
■容量/6.72MB

主人公夏々都は、不治の病で医師から余命宣告を受けた。最後の夏を過ごすべく、彼は長年の友人波多野詩の誘いで、子供時代を過ごした町へやってきた。かつての友人達と子供の頃の思い出を探っているうち、彼らの記憶に欠けているものが浮かび上がって来る……。最後の夏を彩る「思い出探索ノベル」。

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■最後の夏の小さな冒険

2012年1回目のレビュー。この時期は新作が公開されませんので、逆に「ちょっと前の見落としていた作品」を探すには、打ってつけの時期です。今回取り上げるのは、お正月の今とは季節真逆の夏の物語です。おなじみ「夏に帰省」もの。フリーのノベルゲームでも、最も頻繁に取り上げられるテーマの1つでしょう。しかし、今作は帰省の理由が「余命宣告を受けた主人公が、最後の夏を過ごすために」という理由が、ちょっと面白い切り口です。

冒頭、主人公は友人から誘われて田舎に帰る事になるんですが、ここらの展開はテンポもよく、序盤から十分にプレイヤーを引きつけてくれます。登場人物は男性ばかりですが、これが子供らしい「冒険心」を上手く表現してくれていると思います。「子供の頃の秘密基地を探す」なんて、そそられますよね。

そして彼らはやがて、思い出の中に欠けているものがある事に気付きます。なので、後半からは目的がそちらにシフトしていきますが、ここの流れも自然です。全体的に、物語の流れの作り方が良いですね。上手につかんで、上手に方向転換。テンポも良いですし、ストレスなく読めます。

ただ、困ってしまう点が1つあります。それは「キャラの名前が分かりにくすぎる!」という事。夏々都、詩、亜雲、椎名、秀介。もうラノベ風味と言いますか中二風味全開と言いますか(汗)、中には「これ何て読むのよ!?」なのもあったりして、会話が続くと誰が誰だかさっぱり分からなくなります。キャラの名前に凝りたい気持ちは分かりますが、これだけ登場キャラが多く、各キャラがそれなりに役割を担っている場合は、やはり「プレイヤーに分かりやすく」というのも、頭に入れておいて良い要素ではないかと思います。

と、キャラの名前自体は大変分かりにくくて混乱するのですが、男性キャラばかり(女性キャラも中盤以降1人出て来ます)なのに、役割分担は上手く出来ていまして、ありがちな「立っているだけの電柱みたいなキャラ」がいなかったのも、好印象です。

物語は後半から急展開しますが、中盤以降は主人公が不治の病であるという設定も、程よく絡んでいて良い感じです。ただ、ラストにこの設定が生きているかというと、ちょっと、という気もします。というのも、主人公夏々都の「不治の病で最後の夏を過ごす」という設定が仮になくても、現状のままだと物語は成立してしまうのです。設定自体は面白いので、この設定でないと決まらない、これというオチがあればと思いました。

物語は全体にシンプルですが、展開のさせ方とテンポが上々で、かつそもそもの設定が、意外と考えさせられるものであるため、全体としてのバランスは良好です。なので読後感も良く、凄く良いとは言えないまでも、「ちょっとだけ良い時間」を過ごさせてくれる作品です。突き抜けたものがある訳ではありませんし、誰にもお勧めできる良作かと言われると、そうですとは言いにくいのですが、何の気無しにプレイして「ああ、ちょっと良い時間を過ごしたな」と思えるこういう作品も、また貴重な存在だと思います。その意味では、まさしく「ファンタジー世界の大冒険」ではなく、「子供のちょっとした冒険」を味わわせてくれる作品です。

システムは吉里吉里。選択肢はなく、プレイ時間は40分程度だと思います。大冒険ばかりで食傷気味の方は、ちょっと昔懐かしい香りがする、こんな小さな冒険はいかがでしょうか。

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