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天使屋

天使屋 ■制作者/天上音楽(ダウンロード
■容量/6.72MB

深渕は、土地の取引の仲売人として、「天使屋」と呼ばれる宗教団体の礼拝堂へやって来ていた。取引相手である教団幹部との話もそこそこに、礼拝堂に現れたのは、かつての顔なじみである真那。彼女は「天使会議」に選ばれたというが。ハードボイルドなファンタジー物語。

ここが○

ここが×

■奴はとんでもない物を盗んでいきました

前回は真夏の物語でしたが、今度は寒い季節の物語。一風変わったタイトルが目をひく「天使屋」です。この作品、以前から名前は知っていたんですが、プレイする機会がなかなかありませんでした。今回プレイしてみて、私が想像していたのとは全く違う雰囲気のお話に、びっくり。もっとファンタジー全開な物語を想像していたんですが、ファンタジーというよりは、ハードボイルドとでも言った方がいいような、硬派なお話です。関係ないですが、作者の日向梓さんって、どこかで見た名前だと思ったら「あずきフォント」の作者さんなんですね。

さて、物語の舞台設定は2つの宗教団体による抗争です。パイプオルガンが使われてたり、教会の外観などもどう見てもキリスト教なのですが、内容はキリスト教とは似ても似つかぬものなので、まるでアメリカ人がハチャメチャな事を「Zen」(禅)と呼んでしまっているような違和感爆発だったりします(汗)。ともかく、主人公の仲売人深渕が、大聖堂建設のための土地を「天使屋」か「喪服」(何て名前だ)のどちらに売るかの交渉の場につくところから、物語は始まります。

出だしこそ礼拝堂が舞台で、ヒロインの真那が出て来る辺りだけ見ていると、どう見てもファンタジーなのですが、段々物語はきな臭くなってきます。途中からは時計塔を舞台に銃撃戦まで始まってしまうんですから、立派なハードボイルドです。ハードボイルドらしく、余計な描写や過剰に心情を書く事をせず、物語それ自体のテンポの良さもあいまって、どんどん読み進められます。

この手の描写が入る作品って、ともすれば銃の種類がどうしたこうしたとか、物語進行上は何ら関係のない、ある意味どうでも良い描写をくどくど語る傾向にあるんですが、この作品はそういうところは実にさらっと流してくれます。銃の銘柄なんかを持ち出されたら私なんぞは完全に「何言ってるのか分かんない」状態ですから、こういう割り切りぶりは好印象です。

さて、ヒロインの真那は背中に羽根が生えるための種を植えられた、「将来の天使」です。この辺りも、設定だけ見れば「何のこっちゃ?」という感じですが、今作にはこういう、一種突飛な設定でも、有無を言わせず納得して読み進められるパワーがあります。それは、一種非情とも言える文体とも無関係ではないでしょう。上にも書きましたが、他の箇所でも余計な事を一切書かずにずんずん進むため、こういう常識ではありえない設定も、すっと入って来る気がします。

ただ、設定に対する説明が細かくある訳ではないので、少々消化不良感が残る感は否めません。例えば深渕と真那の施設の話とか(これはあるシナリオで少し語られますが)、「喪服」と呼ばれる相手側の組織の事とか。そう言った意味でロジカルな整合性よりは、その雰囲気を楽しむ物語と言えましょう。

そこまで全部盛り込もうとしたら、恐らくは尺が倍以上になるはずです。そこを割り切って切り捨て、要点だけに絞り込んだ作りは、ある意味非常に潔いですし、要素を絞り込んだ分、分かりやすさは間違いなく増しています。

しかし、ハードボイルドな筆致でちょっとファンタジーな物語、全体を一貫しているモノクロームな雰囲気、それに深渕と真那というキャラを見ていると、この作品は「TRUE REMEMBRANCE」をちょっと思い起こさせるところがあります。物語自体はあんまり似ていませんが、もしかしてあの作品に影響を受けたりしたんでしょうか。

システムはNScripterです。エンディングは5つ+おまけ。難易度はさほど高くないですが、作品が古いので既読スキップがないのは、少し辛いですね。長い作品でもないので、頑張って攻略しましょう。プレイ時間は全エンディングを見ても1時間半はいかないと思います。物悲しいエンディングが多いですが、ちゃんとハッピーエンド(Ending 4)も用意されてます。じゃないと私が取り上げるはずありません(笑)。こういう物語は、寒いうちにプレイしたいですね。

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