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白き時を越えて

白き時を越えて ■制作者/夏野蒼子(ダウンロード
■容量/32.3MB

女子高生時丘華菜の回りでは、最近集団失踪事件が多発していた。華菜の親友である綾も2週間前に行方不明になっていたが、その悲しみに慣れてしまった華菜は戸惑いつつ日々を送る。ある日交差点で、華菜自身も事件に巻き込まれそうになり……。SF風の凝った設定で送る、友情サクセスストーリー。

ここが○

ここが×

■白き時の彼方に貴方を見る

随分間が空いてしまいましたね。久々のレビューです。この作品の作者さんは女性ですが、凝った設定やキャラクターバランスの良さなど、女性らしからぬところも感じさせる野心作でした。「白き時を越えて」のご紹介です。物語の主人公は、女子高生の時丘華菜。古風なセーラー服が良い感じです(?)。彼女の回りで多発する集団失踪事件に、華菜自身も巻き込まれそうになったところ、謎の男に助けられて……と、冒頭はそんな感じです。中盤から(序盤から?)あれこれと独自の設定が顔を出し、SF風の展開を見せますが、意外と根幹の展開はストレート。SFの皮を被った友情物語という感じです。

まず気になった点からです。物語の構成自体はさほど複雑ではないと思うのですが、物語を形作るバックボーンというか、「仕掛け」の部分が複雑過ぎて、世界観が十分に理解できなかった点が惜しまれます。例えば、時に流されるなどの重要な要素とか、パラレルワールド云々についての設定が、読み手に十分消化しきれないまま、更に新しい要素が出て来るので、混乱を来たしてしまうのです。

小説ならば気になったら前のページを開いて読み返せばいいですが、ノベルゲームではそれは難しいです(しかもツールがYuuki! Novelですから、なおの事です)。なので、ノベルゲームでこの手のシナリオを組む場合は、バックボーンはシンプルにした方が、読み手がすっと物語を理解できたのではないかと思います。

それと、主人公である華菜と、相方(?)の柊くんですが、華菜が「この人には恋愛感情は持てない」というような表現を少し出し過ぎているため、恋愛要素として少し淡白で、ラストの感銘も弱くなってしまった嫌いがあります。キャラクターの絡みとしてはとても楽しめる作品であるので、華菜の親友である綾の恋愛模様も含め、恋愛要素を上手く絡めれば、より面白くなったかも知れません。

あるいは、「別の華菜」と柊くんの描写を、回想みたいな形で入れてみるとか。途中まで(ラストまで?)華菜がつれない態度で、ラストでいきなりああなるので、「あれ?」というところがあります。パラレルワールドものですので、並行世界の描写がアクセントとしてあれば、かなり印象が違ったかも知れません。最初から最後まで閉鎖空間で展開する物語ですしね。設定が複雑ですから、物語に「動き」が欲しかった気がします。しかし、閉鎖空間の長編物語で、退屈せずに読ませてしまう辺りには、作者さんの筆力を感じずにはおれません。

一方で、良かったと思う点です。まず、絵について。作者さんは普段主に漫画を描いてらっしゃる方だそうです。そのせいか、1枚絵の構図に、動きとドラマが感じられます。ノベルゲームの1枚絵って、主人公視点で、しかもクローズアップ視点のものが多く、動きを感じられるかという意味では弱いものが多いのですが、ここは作者さんのセンスを存分に感じられる点で、多数の1枚絵は大いに楽しめました。

また、キャラクターの会話の軽妙さとバランスも良かったと思います。女性作者さんが作られた作品ですと、キャラクターが男性に偏ったりする事も多いんですが、千春に千秋、綾といった女性キャラクターも魅力的で、楽しく読めました。ただ、主人公である華菜が少し冷めて感じたので、もうちょっと主人公が熱くてもよかったのかな、とも思いました。柊くんに対する態度が冷たかったので、そう思ってしまったのかも知れませんが……(笑)。

好きな台詞は、ラストの華菜の「これからは空を見ないで、貴方を見ます」(でしたっけ。うろ覚え)です。これは良い台詞です。欲を言えば、この台詞を生かすための「状況伏線」が、本編の中にあれば、よりこのラストが生きたんじゃないかと思います。また途中、全キャラクターと雑談ができるパートが2カ所あります。雑談しなくても進行上問題ありませんが、色々な裏設定も見えたりしますので、全員と色々な話をしてみるのが楽しいでしょう。

ツールはYuuki! Novel。プレイ時間は4時間くらいでしょうか。選択肢はありますが、難易度は高くありません。実はストレートな物語ですので、複雑そうな設定を怖がらず、あまり考えすぎずに気軽に読んでみるのがいいと思います。

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