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シンクロニシティ

シンクロニシティ ■制作者/P.D Present(ダウンロード
■容量/74.0MB

小日向さとるは、統合失調症を患う20歳。病気への理解がない両親とのいざこざも耐えない。唯一の心のよりどころは、自分を理解してくれる幼なじみの美奈だけだ。そんなある日、さとるは公園で1人の少女と出会うが。重そうなテーマだが気軽に読める、成長&恋愛ノベル。

ここが○

ここが×

■解き放て、シックスセンス

フリーノベルはフリーであるからして、時々変わったテーマの作品に出会う事があります。この作品の主人公も変わっています。主人公が統合失調症(以前は精神分裂病と言っていた。確かドイツ語では今でも「分裂病」のはず)という設定。この設定だけだと、サイコホラーにでもなるのかと思ったら、実は意外なほど気軽に読める恋愛物語だったりするのです。

私は仕事柄、統合失調症の人は時々見るのですが、この病気の人は表情や話し方が独特で、すぐに分かったりします(もちろん程度にもよる)。そういうところから、未だに差別的な目で見られる事があるのも事実です。そこら辺りからの脱却をメインに、恋愛物語をさらっと絡ませた、そんな感じの物語です。リスパダールだのジプレキサだの、聞き覚えのある名前の薬が出て来るので、ちょっと嬉しかったり(笑)。

シンクロニシティさて冒頭こそ、意味不明な夢の描写や、両親とのちょっと険悪っぽい雰囲気で、身構えてしまいがちなのですが、幼なじみの美奈が登場すると、作品の雰囲気が一気に変わります。美奈を変にシリアスなキャラクターにせず、能天気風なキャラクターにしたのは成功だったと思います。上手く緊張を緩めてくれますし、逆に時には彼女が緊張を高めてくれますが、読み手と物語世界を繋ぎやすくする役割を持っています。

更に、主人公も美奈を心の支えとしていますから、そういうところが読み手と共鳴しあって、重いテーマなのに読みやすい作品です。美奈以外にも、サブヒロインの静香や八百屋の清美おじさんなど、個性的なキャラクターが要所を締めています。全体に渡って「出ているだけ」の死にキャラがいないのです。主人公はもちろんですが、脇キャラがしっかりしている物語は、全体も引き締まりますね。

ただ、会話が主体の物語なんですが、その会話が延々とかぎカッコで囲んだ会話文の連続で読み辛いです。こういう構成の場合は、やはり発言者の名前を表記した方が分かりやすいですね。なお、この作品は主人公が見る夢のシーンだけ横書きで、メインは縦書きです。変わったレイアウトですが、立ち絵の全身が見られるので、これはこれで変わった効果があります。

それと、ラスト近くはちょっとご都合主義的な展開と思えなくもありません。ま、テーマである「シンクロニシティ」であると考えればあれでいいのかも知れませんが、ご都合主義にするんなら、いっそバッドエンドではなく、静香エンドが欲しかったかも知れません(笑)。

ストーリーは後半、サブヒロインの静香の抱える問題に主人公も関わって進みます。この辺りの主人公の関わり方のちょうど良さが良いですね。関わりすぎも、さりとて距離を置き過ぎもせず、絶妙な距離感で関わっています。しかもそれを自分の問題にも置き換えて、主人公自身も成長しています。統合失調症という題材にしても同じで、全面に出過ぎる事もなく、ちょうどよくテーマに関わっています。この辺のさじ加減と言い、キャラクターメイキングの巧みさと言い、作者さんのセンスでしょうね。

ところで、システムは吉里吉里なんですが、何故かテキスト表示速度の変更ができなかったり、途中から読み返しが出来なくなってしまうのが、ちょっと気になりました。それと、自動作曲ソフトで作ったようにも聞こえるエンディングの曲が怪しすぎて、夢に出て来そうです(爆)。ちなみに、作中「精神症」という表記が出て来ますが、これは「精神病」ですね。「神経症」と混同されているのかも知れません。

選択肢はラスト近くで2カ所出て来ますが、特に難しくもないでしょう。プレイ時間は1時間で、エンディングは3つ。1つはバッドですが、あと2つは出だしからは考えられないようなハッピーエンド。全部のエンディングを見ると、女性キャラクターのおまけ絵を見る事ができます。作品紹介だけで見過ごしていたんですが、やはりノベルゲームはプレイしてみないと分からないなと思わせられた作品でした。

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