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SOLAR POWER

SOLAR POWER 準推薦
■制作者/ヒビキソラ(ダウンロード
■容量/159MB

夏休み初日、誠はお気に入りの場所である、丘の上の草原へやって来ていた。そこで出会った不思議な少女、空。ひょんな事から空を自宅に住まわせる事になった誠。誠と空の楽しい夏休みがずっと続くかと思いきや、思いも寄らない事件が。出だしで侮っていると足下をすくわれる意欲作。

ここが○

ここが×

■そして日はまた昇る

フリーノベルでよくあるジャンルに「ボーイミーツガール同居型」があります。「発掘少女」がそうですし、あるいは舞台が夏で、その他諸々含めた雰囲気で言えば「君といた夏」が、この作品ととても近いムードを持っています。もっとも、今作の主人公である誠は、「君といた夏」の流斗に比べると、ずっと人当たりが良くて一般的ですが(笑)。

出だしは、非常にありがちです。主人公である誠が草原で謎の少女と出会い、成り行きで自宅に住まわせるようになるというもの。しかも主人公は父親を亡くしており、母親は仕事の都合で家を空ける事が多いという、実に都合のいい設定。同じような出だしの作品はいくらでもあります。「ゆめいろの空へ」とかね(笑)。

SOLAR POWERしかしこの作品は、そこらへんの設定を上手に伏線として生かしている辺りが、上手いです。序盤こそ、よくあるカレンダー消化型の夏休みノベルで、とにかくテンポよくぽんぽんと進行します。テンポ良過ぎだろうというくらい。誠と空、それに誠の母親早苗を交えた交流が続き、「ふーん、よくある『そして別れが来ました』みたいな展開なんだろうな」と思いながら読んでいました。

が、後半でいきなりその舞台をひっくり返すような事件が起こります。この事件に対する伏線もそれとなく敷かれている辺りが芸が細かいのですが、あまりの唐突さに「えええええ!!」と叫びそうになるほどでした。しかしそこを紙一重で乗り切ったのは、ひとえに母親である早苗のキャラクターの良さによるところが大きいと思います。下手をすれば陳腐なシーンで終わりかねないのですが、ここは前半の交流シーンの描写が非常に生きていて、見せ場の一つになっていました。早苗は、フリーノベルでは珍しい「キャラとして生かされているお母さん」だと思います。

その後がまたびっくりするのですが、何故かいきなり推理もの風の選択肢が出て来るのです。ちょっと考えれば分かる程度なので、難易度は高くなく、おまけに間違えてしまったらちゃんとヒントが出て来るので親切です。ここに来てプレイヤーは初めて、「ああ、そういう事ね」と気がつく仕掛けです。なかなか上手く作ってあります。

この作品は、作者さんの処女作だそうです。一般にそういう場合、「こういうシーンが書きたいな」という動機で作られる事が多く、作りとしては非常にシンプルな作品になる事が多いのです。しかし今作の場合、作者さんの「このシーンを生かすために、できるだけの工夫を凝らしてやろう」という意図が非常によくうかがえて、感心させられました。非常に些細な描写までもが伏線として用いられていたり、その創意工夫はお見事だと思います。

ただ、伏線として使うにしては、ちょっと説明が足りないような箇所も見受けられました。ヒロインである空の根本に関わる設定にしても、ミスリードにこだわらなければ、もっと十分に、しかも説得力がある描写ができたはずです。あるいは、空の特殊能力に関する設定にしてもそうですね。もちろん、一応それを匂わせる描写はあるのですが、全般に謎に関わる部分について少々唐突感があるのは、否定できません。ロジックの面でも、どうも強引なところがあります。

それでも、この作品は「フリーならでは」なところを存分に味わえる魅力作だと思います。ラストも、プレイしていれば想像できる終わり方ではあるんですが、ちょっとした台詞回しがびしっとはまっていて、非常に綺麗にまとまっています。登場キャラが3人しかいないんですが、その3人が上手く作られて、しかも物語内での役割がきっちり分担され、各キャラがその役割をしっかり生かしていればこそでしょう。

評価にはかなり迷ったんですが、処女作という点も考慮して、準推薦です。ツールは吉里吉里。プレイ時間は1時間半くらいで、後半に推理ものっぽい選択肢が来ます。間違えても直前に戻るだけなので、心配いりません。作者さんの意気込みが全編から感じられるフリーノベル。こういう作品をプレイすると、なかなかフリーノベルはやめられませんね。

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