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メモリーズ

メモリーズ ■制作者/オキハタトモユキ(ダウンロード
■容量/199MB

22才の藤井岳琉はファンタジー小説を書く作家だったが、大切な人をなくしてから、気力をなくして酒浸りの毎日だった。ある日公園で助けた少女に、家に泊めてくれと頼まれる。その少女、前原舞には記憶がなかった。2人の生活の行方は果たして。短編恋愛ノベル。

ここが○

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■いつかはトゥルーメモリーズ

前回が長い作品で、今私もちょっと忙しくて時間がないので、今回は短編ノベルを取り上げます。「メモリーズ」とはシンプルなタイトル。この作品は、いわゆる「ボーイミーツガール同居型」です。類似の作品は、挙げればきりがありませんが、「こんな物語」「あまやどり」「朝焼けの謡」あたりが代表作。一番最近なら「拾われた夏のエデン」がそうですね。

なのですが、この作品は主人公の職業が作家というのがちょっと変わっています。今作は、主人公の職業だけにとどまらず、失った幼馴染みの可奈とか、舞が記憶喪失である事とか、このプレイ時間にしてはいやに設定が盛りだくさんです。普通はこの時間でこれだけ要素を盛り込んでしまうと、往々にして消化不足に陥ってしまいがちです。

メモリーズが、この作品は各々の要素が良い具合にお互いを補完し合って、短いプレイ時間なのに盛りだくさんの要素が消化不足になっていません。例えば、主人公が、大事な人を失って書く気力を失っているという設定は、後半主人公がやる気を出すところの描写で上手く活用されていますし、今書いている物語が実は岳琉と可奈が……というのも、上手い隠し味になっていると思います。この辺のバランス感覚が見事ですね。

また、主人公岳琉は22才でヒロインの舞は17才なのですが、その年齢差とか、あるいは可奈を失ってそれほど経っていないのに舞にひかれる自分に対する葛藤が、さりげない描写の中に織り込まれており、恋愛物語としては良い流れを作っていると思います。この手の主人公の葛藤って、くどくど描写するとそれだけで読者が疲れてしまうんですが、この作品は変にしつこくなったりはしていません。

反面、岳琉が舞にひかれる過程については、かなりいきなりな感じで、少々唐突なイメージはぬぐえません。もうワンクッションあればかなり印象が違ったと思うんですが……。また、可奈に関する描写がほとんどないのも、その印象に拍車をかけているような気がします。ここにはもう1つ筆を裂いても良かったような気がします(関係ないが「岳琉」と「舞」で、「マグネロボ ガ・キーン」を思い出したのは私だけか(笑))。

しかし、後半からラストへの持って生き方が良いですね。「2人の将来のために別れました」でもなく、「そのままずるずる居続けました」でもない、きちんとお互いに納得した上での綺麗な終わり方です。一度目の別れの描写があったからこそ、二度目の別れでの舞からの一言が効果的ですし、ラスト近くのちょっとバカップル風の描写も、一度目の別れがあればこそでしょう。このラスト近くの流れは、とてもいいと思います。

なのですが、終わり方がいきなりすぎて「あれ??」となってしまいました。せっかくラストのムード自体はとてもいいのですから、あと一歩綺麗に落として欲しかったような。あるいは、エピローグ的なものを付けてみるとか。ラストの展開自体がいいので、そこまで欲求不満にはなりませんが、もう一押しが欲しかったようにも感じました。

なおこの作品は、「Wolf RPG Editor」というツールで作られた「デジノベ君」という、簡単にデジタルノベルを作れるツールで作られています(このツールは、妙に起動が重いのが珠に傷である)。読み返しはできますが、セーブ機能や既読スキップはなく、必要最小限という感じです。短い作品なので、とりたてて困る事はないと思いますが、ウィンドウサイズが800x600なのに、背景が640x480なのが謎です。

プレイ時間は30分程度で選択肢はありません。短編恋愛ものとしてはなかなかの佳作だと思います。あの終わり方では続きが気になって仕方ないので、作者さんには是非続編を期待したいところです(笑)。

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