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りんごが見た夕焼け

りんごが見た夕焼け 準推薦
■制作者/チーム俺達(ダウンロード
■容量/199MB

夏波タカシは、過去のある出来事のせいで、他人を誰も信じられない孤独な高校生。そんな彼は、ある日公園で1人の少女と出会う。記憶を失っているその少女、夕日との関わり合いの中で、タカシはどう変わって行くのか。定番の方向性ではあるが、ラスト近くの見せ方が光る長編ノベル。

ここが○

ここが×

■迎えに来たよ、さあ帰ろう

ノベルゲームをタイプで分けると、病院ものとかボーイミーツガールとか色々あると思いますが、この作品はまたジャンル分けしやすいタイプ。ところが、そのジャンル分けを書いてしまうとネタバレになってしまうから書けないという(汗)。いわゆる「ボーイミーツガール同居型」(同居しているのはそう長い期間ではないのですが)ですが、シナリオのポイントとなるもう1つの要素は、言ってみれば使い古されたものです。

主人公であるタカシは、人間不信で言動もネガティブで尖り過ぎているため、序盤はちょっと感情移入が難しいところがあります。「君といた夏」の主人公である流斗もそんな感じでしたが、今作のタカシも負けず劣らずです。ただし、学校における行動にも問題があった流斗に対して、タカシは対外的には問題を起こすような生徒ではないので、そこまで見ていていらいらしたりはしませんが、あんまり感情移入しやすいタイプではありません。

りんごが見た夕焼けそんなタカシが記憶喪失の少女と出会うところから物語が始まります。タカシはこの少女に対しても徹底的に無関心を貫こうとしているのですが、そんな彼のもくろみは、お約束通りことごとく空振りに終わります(笑)。記憶喪失の少女夕日とタカシの掛け合いがなかなか面白いのですが、それほど劇的な起伏がある訳ではないので、中盤くらいまでちょっと退屈かも知れません。

で、中盤くらいまでの夕日の言動を見ていると、ほとんどの人が「夕日ってもしかして○○なのでは?」と思うでしょう。ところが、夕日の過去に関する描写は全くと言っていいほどありません。もちろん、この作品で過去描写をしてしまったりなんかしたら、それはそれであまりにバレバレになり過ぎてしまう気もしますが、どのみちほとんどのプレイヤーは気付きそうな気がしますので、やはり前半から何らかのフォローは欲しかった気がします。

あるいは、夕日の過去についてが難しいのであれば、せめてタカシが心を閉ざす原因になったもう1つの事件の登場人物くらいは、前半から何かしらの伏線があっても良かったように思います。その辺含めて、伏線の展開バランスが少し偏っているような印象を受けました。

しかし、いざ秘密が明らかになってからのラスト近くは、非常に良い展開を見せます。普通この手の作品は、「別れが来ました。終わり」で終了してしまうんですが、この作品はそこから更に踏み込んで、タカシが自分の心と向き合うところまで進んでいるのが、他の作品と一線を画するこの作品ならではのポイントだと思います。

そこに絡んで上手いなと思わされたのが、友人である秋野涼の存在です。本当ならクラスメートの女の子でも絡めて恋愛ドラマも要素に含めれば、もっと物語が広がった気がしなくもありませんが、そこらを全部秋野が引き受けてしまっており(笑)、良い言動も多々見せてくれ、タカシの心を動かすきっかけをくれる、主人公の友人としては大変良い立ち位置のキャラクターです。終始ネガティブなタカシとのマッチングもよく、存在感のある名脇役と言えましょう。

過去に登場するあのキャラとか、両親とのわだかまりとか、女性キャラをもう1人絡めてみるとか、中盤までにもう少し要素が欲しかったような気もするのですが、そう言った訳で、通して読んだ時の満足度は高い作品だと思います。せっかくなら、ラストで両親とのわだかまりも解けると良かったんですが、ラストのタカシの様子を見ていれば、それも今後きっと解決される事でしょう。

ツールは吉里吉里。プレイ時間は4~5時間と言ったところで、選択肢はありません。よくある終わり方で終わるかと思いきや、そこからがこの作品の見せ場です。荒削りな面もありますが、フリーならではの勢いを感じられる作品です。期待料込みの準推薦。次回作にも期待しています。

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