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拾われた夏のエデン

拾われた夏のエデン ■制作者/LR(ダウンロード
■容量/44.1MB

ある大雨の日。主人公はとある住宅街の軒下で雨をしのいでいた。そこへ高校生くらいの女の子、サチが声をかけて来る。宿無しの主人公を、少女は自分が住む廃ビルへと案内した。少女は主人公を「あなたは私が拾った捨て猫」と言い、それから主人公とサチの生活が始まった。不思議な感覚の現代ノベル。

ここが○

ここが×

■隣には背の高い猫

最近、立ち絵がない作品が少ないですが、数的に少なくなった訳ではないと思います。どうしても立ち絵がない作品は「5分で終わります」みたいな作品が多く取り上げにくいのです。また、文章力一本勝負になってしまうため、立ち絵や1枚絵がある作品に比べると、作る側にもプレイヤーにもハードルが高いのではないでしょうか。

この作品はそういう意味では、文章力は非常に確かで、安心して読めます。文章力自体は高くても、変なレトリックにふけるような作品だと、特に立ち絵のない作品はきついですが、この作品にはそういう心配もありません。「発掘少女」の作者さんの作品で、綺麗な絵がついていた前作に比べると地味ではありますが、文章自体の印象は前作の印象と基本的に変わりません。粋な台詞回しが多いのも、この作者さんの特徴ですね。

拾われた夏のエデンさてこの作品は、典型的な「ボーイミーツガール同居型」です。つまり、大枠としては「発掘少女」に近いところがある、のかも知れません。ただし「発掘少女」では拾われたのはヒロインでしたが、今作では主人公が拾われます。その主人公がいきなり猫扱いされて、終始ヒロインには「シロ」呼ばわりされるという、何だかよく分からない展開。正直上のストーリー説明を読んだだけでは、意味不明でしょう。

とは言っても、第一印象ほど難しい物語ではありません。主人公とサチには実は隠された秘密があって、それが後半明らかになります。後半からはサチの元クラスメートであるユウタというキャラも絡んで来て、ラスト近くのしんみり具合や、余韻をひくエピローグは、一見の価値があります。

とは言え、後半明らかになるサチの設定については、「え、現代ドラマでいきなりそういう設定!?」とちょっと首を傾げました。論理的な理由付けがなく(架空の設定にすべてロジックが必要とは思いませんが、この作品の雰囲気にはそういうロジックのない設定はそぐわないと思う)、設定の明かされ方もいささか唐突です。主人公の秘密については、それとなく伏線を張られているので、一応納得できるのですが……。

それと、この作品はボーイミーツガール同居ものではあるんですが、恋愛要素は存在しません。そしてこの作者さんの描写はどちらかというと抑えた筆致で語るタイプですから、そういう要素も相まって、そのままではちょっとドライな印象を読者に与えるのは否めません。それを主人公とサチ、あるいは主人公とユウタの会話で見せる、粋な言い回し、凝った描写が補っています。ともすればドライに感じさせるところですが、枯れすぎず、さりとて過剰にどろどろせず、恋愛関係ではない2人の微妙な距離感を前面に出せていると思います。

とは言え、部分部分ではもう少しウェットな描写があっても良かったのかな、と思います(これも「発掘少女」と同じ印象なんですけど)。捻りもあってラストもそれなりに盛り上がるんですから、そういうシーンくらいは、描写に感情を入れても良かったのでは。まあ、これがこの作者さんの作風なんでしょうね。

終わり方は結構余韻を残してくれますが、せめてサチには何か幸せな未来のきっかけを見せてあげても良かったんじゃないかと思います。エピローグで「え、このままですか?」とちょっと思ってしまいました(笑)。そこは読者の想像にまかせますという事かも知れませんが、主人公がああですから、せめてサチは、と。

ツールは吉里吉里で選択肢はなし。プレイ時間は1時間強くらい。派手さはありませんが、立ち絵なしの作品でしか味わえない雰囲気を味わえる作品です。「文章で勝負」の作品も、やはりいいものですよ。

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