ノトス水上紀行
準推薦
■制作者／Prime（ダウンロード）
■容量／56.6MB
世界が水没し、たった５つの島だけで人々が暮らす未来の世界。ノトスという島の物語。高校生の少年松原陽介は、幼なじみの少女からヨット部に誘われる。やがて陽介と仲間達は、学生ヨットレースの最高峰「ノトス・トライサット」へ挑む事になる。意外な展開に驚かされる、マルチエンドのノベルゲーム。
ここが○
- 個性的なキャラクター。活かし方も上手い。
- 特に夏海シナリオの出来が良い。展開にメリハリがあり、読んでいて引き込まれた。
- ヨットを操るシーンの描写も臨場感あり。
ここが×
- 絵は微妙。
- 尻切れトンボで終わる亜子シナリオと、あまりに突拍子もないヒカリシナリオ。
- システム自作は立派だが、フォントが見辛かったり、少々配慮に欠ける。
■ノトスのご加護がありますように
この作品は、以前「Nature Baby」を作られた作者さんの手によるものです。前作は、目の付けどころは面白かったんですが、突出した魅力に乏しく「惜しいな」と思わされたんですが、今作は前作よりかなり面白くなっていると思います。「準推薦」でのご紹介。ただし「夏海シナリオ限定」という気がしなくもありませんが……（爆）。
上の紹介を見ても分かる通り、世界観がかなり変わっています。世界が水没し、５つの島だけの世界。その５つの島の１つ、ノトスにある「ノトス第一学園」のヨット部が舞台。冒頭で、主人公である陽介は、浜辺で倒れているヒカリという記憶喪失の女性と出会います。ここまで書けば、何だか凄くSFチックなんですが、実は大部分は「普通の学園もの」です。少なくともこの設定を見て「うわ、何かこういうの苦手」と敬遠する必要は全くありません。
開始すると、いきなりボーカル曲つきのムービーが流れて、これがまたかなり豪華で度肝を抜かれます。掴みは十分です。ヒロインは３人。幼なじみの亜子、ヨット部部長の夏海、そして記憶喪失の女性ヒカリ。シナリオも３本。このうち、夏海シナリオが群を抜いてよく出来ています。普通に学園ものとして見ても、ヨットを操縦する時の描写などがそれっぽくてテンポもよく（私はヨットの知識などありませんが）、シナリオのバランスも良。この夏海シナリオだけで、「準推薦」をつけたと言っても良いくらいです。
じゃあ他の２人のヒロインはどうかと言うと……。まず幼なじみの亜子シナリオ。悪くないんですが、終わり方がかなり唐突。どれくらい唐突かと言うと、終わった瞬間これは間違いなくバッドエンドだと思ったくらいですから（笑）。展開は悪くなかっただけに、終わり方とそこへの持って行き方に、もう一工夫あればと惜しまれます。
そして、一応メインヒロインである記憶喪失のヒカリシナリオ。他の２人を攻略した後じゃないと入れないんですが、これがかなりのぶっ飛びモード全開。ヒカリの秘密などはここで全て明らかになるんですが、正直夏海シナリオの後だと、ちょっと蛇足に感じてしまったのが正直なところ。終わり方は綺麗なんですけどね。
で、今作で一番のツッコミどころとなりそうなのは、「絵」でしょうか。絵柄はともかく、手足の長さのバランスがちょっと良くない感じ。まあ私は読んでるうちに慣れましたが。目安として「ほたこい」の絵に抵抗がなければ、多分今作も大丈夫でしょう（笑）。音楽は全て自作のようで（MIDIやMP3ではなくOGG）、なかなかよく出来ています。システムも全部自作のようで、これには恐れ入りました。ただ、既読スキップがちょっと使い辛かったり、フォントが少々見にくかったりしたのが気になりました。あと「役不足」を、お約束のように誤用してます。
今作で感心したのは、夏海シナリオの出来映えもですが、キャラクターがとても良く描かれている点です。ヒロインだけでなく、友人の大哲やクラスメイトの変てこな３人組も、最初は「何だこいつらは？」だったんですが、しっかり描かれていて感心しました。確かにヒロインによって、シナリオの出来にばらつきがあったり、展開が突拍子もなかったりするんですが、夏海シナリオ１本で十分お釣りが来る出来映えです。
プレイ時間は４～５時間くらいでしょうか。２回目以降は既読スキップを使えば１時間かからないと思います。３人のヒロインをクリア後はおまけシナリオもあり。ちょっと変わったヨット体験学園ノベル。まだ暑さが厳しい今の季節のうちに、是非どうぞ。