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call pure pain

【call pure pain】 ■制作者/呼び声のするトコロ(ダウンロード
■容量/24.4MB

毎日仕事に明け暮れる、平凡なOL御巫白雪は、病院とは無縁の生活を送っていたが、ある日体調を崩して病院へ。そのまま入院する事になってしまう。初めての入院生活、治まらない小さな痛みといら立ち、そして出会う人々。些細な非日常の先に、白雪は一体何を見るのか。病院を舞台にした選択肢のないノベルゲーム。

ここが○

ここが×

■人は痛みの為に優しくなれるか

またも病院もの。「call angel voice」「call sacrifice heart」の作者さんによる新作です。前2作も病院物で、人物設定など前作や前々作と共通するところもあります。さすがに書き慣れているのか、文章なども安定していますし、何より「病院の雰囲気」を醸し出す事にも手慣れている感じ(ただ、20代半ばで主任看護婦ってのは無理があると思いましたが)。

病院もののご紹介はこの作品で5作連続になりますが、この作品は主人公が病気になります。「call angel voice」の主人公は交通事故でしたが、主人公が病気にかかってしまう作品も珍しいですね。ヒロインが病気にかかる作品なら珍しくありませんけど。この作品は、描写が取り立てて重い訳ではありませんが、主人公に前向きな言動が少なく、周りに流されるようなところが多く見られるため、全体に少々暗めの雰囲気です。前作「call sacrifice heart」も暗かったですが、あれは設定に由来する重さ、暗さだったのに対し、こちらは主人公の性格や言動に由来する重さです。なので、読んでいて少々ストレスを感じる場面もありました。

さて、この主人公は別段重病ではないんですよね。心筋炎という病気は、結構よくある病気で、予後も概ね良好です(もちろん、命に関わって来る場合も稀ではありませんが)。なのに、この主人公はちょっと過剰に悲観的すぎる感じがして、少し感情移入が難しかったですね。まあ主人公が女性というせいもあるんでしょうけど。

それでいて、周りにはやたらと重い物を背負った脇キャラが登場します。ここら辺りのバランスがちょっと良くないんですよね。更には、主人公の病気はとりたてて重病ではない上に、目立った治療がある訳でもないので、主人公がほとんどシナリオを引っ張って行く事がありません。シナリオは最初から最後までほとんど脇キャラが引っ張ります。

その脇キャラの設定バランスが良くない(大事な場面で突然登場するキャラもいましたし)ので、シナリオ全体の展開バランスもちょっと不良なのに加え、主人公が能動的に何かする訳ではないため、少々盛り上がりに欠ける物語になってしまってるんですよね。部分部分を見れば、魅力的なエピソードもたくさんあるので、ちょっと惜しいですね。登場人物の名前が、かなり現実離れしたものばかりというのも、個人的にはちょっと気になりました。

とまあ、主人公のキャラクター的な魅力は正直イマイチですし、脇役キャラのバランスもちょいとよろしくないんですが、そう言う点を除くと、脇役キャラ自体は非常に魅力的に描かれています。立ち絵は作者さんが自ら描かれてますが、過剰にアニメチックではない独特の温かい絵柄で、作品世界を個性的に彩っていると思います。音楽も場面に合っていて良いですね。この辺りは、さすがに安定した出来映えとなっています。

シナリオについては、結構手厳しい事を書いてしまいましたが、今作はかなり明確なテーマを持っています。ちょっと作品内でそのテーマが途中ぼやける事も多かったですが、基本的にはテーマに向かって物語が流れて行きますので、「作品を味わった」という意味での満足感はなかなか大きいと思います。欲を言えば、主人公の設定をもう一工夫すれば、テーマがもっと浮き彫りになった気がしますし、この手の作品では、テーマを多少大げさなくらい全面に押し立てた方が良いような気もしましたが、読み終わった時は満足感を味わいました。

プレイ時間は2時間ほど。選択肢はありません。ロゴやアイキャッチなど、全体にかなりセンスの光る作品となっています。多少重い内容ですが、そう過剰に重くはありません。シリアスで読後感の良い日常の物語を読んでみたい方にお勧めします。

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